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□Act.3
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「えと…先日、カロルとユーリさんに行って頂いた情報屋に行きたいんです」
「へー…相変わらずのその怪我で、か」
「ちょっとだけ、ちょっと行ってすぐ戻ってきますので…あの、そこ…通していただけないでしょうか」
ほの暗い笑みを浮かべた、どこか逆らい難い、怖いオーラを纏って入口に陣取るユーリに、タツナリは辛抱強く語りかけていた。
朝起きてギルド内の諸々の家事を無理矢理手伝い、昼から夕方にかけて自身の仕事をこなし、夜間に傷による熱をぶり返して寝込む、という生活を繰り返すこと数日。
流石のカロルも「タツ大人しく寝てて!」と怒り、カロルの部屋に缶詰めになった――はずだったのだが。
どうしても手元の仕事に関して自ら件の情報屋に出向く必要があったタツナリは、隙をみて抜け出そうと試みていた。
しかし今の“凛々の明星”がタツナリ一人を残して外出するはずもなく、くじ引きで留守番係になっていたユーリにあっさりと捕まっているのであった。
「あのな…仕事のための外出なんて贅沢、熱が出なくなってからするもんだろ」
「それならちょうど今は熱も落ち着いていますし、おかげさまで傷口もひと段落ついたと思いますので」
「へぇ、なら試しに軽く腹にチョップでも入れてみますかね」
耐え切ったら通してやるぜ、と左手で手刀を作りながら無駄に綺麗な笑みを浮かべるユーリに「流石にそれは」と冷や汗を流しながら傷口の上を庇うように手で押さえてタツナリが後ずさる。
「この間行った情報屋なら、カロル先生が戻ってきてから行ってもらえばいいだろ」
「…この間は、仕事の斡旋だったのでまだ手紙で大丈夫だったんですけど…今回は依頼を断る話をしに行きたいので、出来れば自分で出向きたいんです」
タツナリの意外な言葉に、ユーリは面食らった表情でタツナリを見返す。
「珍しいな、厄介な仕事でもまぎれてたのか?」
「いえ、あの、俺の力不足が原因ではあるんですが…とにかく俺では受けられない仕事が混じっていたんです」
何故か恥ずかしそうに頬を染めながら頭を掻くタツナリ。
意味が全くわからないユーリは軽く溜め息をつく。
「カロルの帰りは待てないのか?」
「確か戻りは夕方以降ですよね。依頼もわりと納期が迫り気味のものなので、出来れば日のあるうちに他のギルドに回してあげたいんです。…それと、出来ればカロルにばれないうちに行って帰ってきたいな、って思って」
バレたら心配かけてしまいますし、と困ったように笑いながらタツナリは言う。
「…俺には心配かけても構わねぇのか?」
「そんな事はないんですけど…できればここはひとつ、大人の寛大さでご容赦願いたいです」
「……仕方ねえな」
大仰な仕草で扉に寄りかかっていた身を放し、ユーリは傍らに置いていた刀を手にする。
「オレもついていく。それが条件な」
「え」
いいんですか? と言葉にせずとも顔に出ているタツナリの様子にユーリも苦笑する。
「ここで止めて困るのは元の依頼主だろうし、な。それにまぁ、窓から逃亡を謀らなかった真面目なタツにご褒美、だな」
「あはは、正直、これでダメなら窓から出て行く予定でした。――ありがとうございます、ユーリさん」
「どーいたしまして。ほれ、そーとなったらもっと着込め。また夜に熱出してカロルに怒られたくねえだろ」
「はい!」
ぱっと顔を明るくしたタツナリの頭をぐしゃぐしゃと撫で、ユーリは手近にあった外套を引っつかんでタツナリに被せた。