その他
□ウチの子になんない?
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緩やかに気温が下がりつつあるマンタイクの夕暮れ時。
遠征に来ていたレイヴンは疲労が見て取れる様子で、しかしどこか軽やかな足取りで宿の一室の扉を開けた。
「たっだいま〜、タツくん生きてる〜?」
ともすれば歌を唄いかねないノリノリな口調で部屋に入って来たレイヴンに、助手としてマンタイクに同行していたタツナリは目元を緩めて微笑む。
「おかえりなさい、レイヴンさん」
備え付けのテーブルで書類を纏めていたタツナリの姿を目にするなりレイヴンは顔をしかめる。
「ちょっとちょっと何働いてんの、少年。俺様休めって言ったっしょ?」
自分でかわいい仕草だと思っているのか、頬をわざとらしく膨らませながら寄って来るレイヴンにタツナリは眉を下げながら苦笑する。
「もう大丈夫ですよ」
「さっき日射病で倒れたくせになーに言ってんの。はい没収〜」
「あ…」
言葉と共に手の中にあった書類を没収され、タツナリは名残惜しそうに声を漏らした。
「そんな仕事は後々。それよりタツく〜ん、俺様めちゃくちゃ疲れちゃったわ〜」
奪った書類を脇に放るや否や、甘えるような仕草で抱きついてくるレイヴンにタツナリは一瞬うろたえたような表情を浮かべたが、表情を緩めてレイヴンの腕の中に収まる。
「お疲れ様です、レイヴンさん」
柔らかい微笑みと共におずおずとした控え目な仕草で背中に腕を回され、レイヴンは満足気な笑みを浮かべながらタツナリの肩口に顔を埋めた。
結局やんわりと言い包めて奪い返した書類を整理するタツナリを、レイヴンは反対向きに座った椅子の背に頬杖をつきながらつまらなさそうに眺める。
「そんなの明日でいいのに」
「そういうわけにはいきません。仕事ですから」
「タツ君は俺が帰ってきた時に癒してくれればじゅーぶんなの」
「…ハリーさんからは『助手兼見張り』って名目で依頼を受けてるんですけど…」
しかも重きを置くのは見張りの方、といったニュアンスで依頼を受けている。
最終的には期日は守るものの何かとサボり癖のあるレイヴンを、縛り付けるわけでもなくうまく言い包めてサポートをするタツナリの手腕を認めてくれた若き首領の期待を裏切るわけにはいかない。
…結局の所、初日から日射病で倒れるなんていう失態をおかしているのだが。
「ホンット仕事人間だよね〜タツ君。フレンちゃんと張れるんじゃないの」
「騎士団長の忙しさはまた別格だと思いますけど…」
誰でも出来るお使いのような仕事と比べられ、タツナリは遠く離れた帝都で日夜仕事をこなしているであろうフレンに少し同情する。