*空回りの運命線

□久しぶり
2ページ/5ページ






トントンッ


病室を叩く二回のノック音に私は顔を上げた


『はい』
そう返すと、ドアがスーッと開き土方さんが現れた
手には コンビニのビニール袋が握られている。お見舞いに来てくれたようだ



「体はどうだ?」


『よくなってきたんじゃないですか?』

曖昧な返事を返す。土方さんは そうかと言い私に、ビニール袋を渡す

中には私の好きなイカソーメンやビーフジャーキーなどのつまみが入っている




『いや、嬉しいですけど
病人にこれって…』


「うるせぇ
そんじゃ、食うな」

『いえいえ!いただきます!』

取られそうになった袋を必死に守り 笑った。
土方も土方なりに考えてくれたのだろう

土方がコンビニで一生懸命見舞い品を考えてる姿を想像すると 何故か笑えてくる




『ありがとうございます』

ヘラッと笑うと、土方は顔を背けた。
お礼なんて あんま言われるのは得意じゃないんだろう。
そんな事思いながら、つまみに手を伸ばした








「紅」


『は、はい!?』

急に名前で呼ばれたので、スルメイカが手から落ちる
でも、土方はいたって平気そうな顔。いや真剣そうな顔だ







「正直に答えてくれ


お前は、屯所。いや、俺達といて幸せか?」

ジッと目を見つめられ、ドキッと胸が跳ね上がる

幸せ?
そう言われるとわからない。
幸せって何。
皆といて とても楽しい。
でも、それは幸せなの?

私は、黙っていると土方が口を開いた




「前にお前と俺が入れ替わった時があっただろ?
その時に、俺は月を見たんだ

そしたら綺麗でも美しくでもなく寂しい。そう思った


お前は俺達といても寂しいのか?」

その言葉に衝撃がはしった

寂しくなんてない。
きっとアレは、あの感情は昔の






「お前は、昔からずっと 俺達といた。
いつも馬鹿みたいにはしゃいで、強がって、無理して笑っていた事も知ってる
でも、たまにすごく寂しそうな目をした。




お前は いったい何を隠してる?
何を怖がってる?」


ギラリと光るその目を見れずにうつむいた

あの日の出来事を思い出す

赤く燃え上がる炎。
何もする事ができなかった私。
それに、いなくなった背中。


全部全部。なくなってしまえばいい。なかった事になればいい

そう思ったあの日が…





「わりぃ。

嫌な事思い出さしちまったみたいだな。」


カツカツと病室の入り口に歩いていく。
そして、チラッとこちらを見つめ




「お大事に 」

『ひ、ひじか…』



ピチャン


閉められたドアを見つめた。
ポロリと何かが頬をつたう


また、弱いのが出てきた
隠してたはずの感情が溢れだす




『寂しい』
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ