荒東
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何だかんだとあったものの東堂の荷物を部屋に運び入れて腰を落ち着かせた。
一応は客人だしとりあえず出そうと飲み物を用意して戻れば落ち着きなくソワソワと見回していた東堂もふてぶてしく胡座をかいていた。
図々しい奴だなと思いながらも言えば煩くなるのは明白なので飲み込んで、緑茶を注いだコップを差し出す。まぁ、緑茶といってもペットボトルのやつだが。
「ホラ、緑茶」
「荒北はまたベブシか?身体に悪いと言っているだろう」
「ッセ!いーだろ別にぃ」
「良くないな!何事も食事が基本だぞ?」
俺の手にあるベブシに眉を寄せた東堂はジッとこちらを見つめてきたと思えば、良いことを思い付いたとばかりに笑って俺を指差した。
「よし荒北、料理をするぞ!」
「ハァ?」
「うん?夕飯はもう食べたのか?」
「まだだけどォ」
「なら話は早い、キッチンを借りるぞ」
勢いよく立ち上がった東堂が俺の脇をスルリと通り抜けてキッチンの方へ意気揚々と向かっていく。
何故か楽しそうな東堂の背を少しの間見つめながら確かに腹は減ったなと考えて、それからあることに気付く。
「さて、まずは材料の確認をしなければいけないな!」
ガチャッと小振りな冷蔵庫を開ける音がした。
俺もそちらに向かって行けば、東堂がほぼ空っぽの冷蔵庫を見て固まっていた。
「…ちょっと電気料くうから早く閉めてくんナァイ」
「っ空っぽだぞ荒北?!」
「空っぽじゃねーヨ!ベブシと緑茶は入ってるっつーの!」
「それを空っぽというのだろう!」
まぁ、正論。
勢いよく言い返せる言葉がなくて、小さく舌打ちをして冷蔵庫を閉める。
「何を食べて生活してたんだ荒北は!」
「…料理できねーしコンビニ弁当、」
とか、だヨ。と歯切れ悪く続ける。本当は忙しくてベブシだけの日もあったけど怒り出すと知っていて馬鹿正直に話す奴はいないだろう。
「…はぁ、荒北は本当に仕方がない奴だな」
「ア゛ァ゛?」
「そう凄むな」
大人が駄々をこねる子供に向けるような、呆れながらも優しい表情をした東堂は一つ溜め息をついてリビングの方向へ歩いていく。
「ほら、荒北も行くぞ」
「何処にだヨ」
「今日はとりあえず時間がないからコンビニだな」
「コンビニ弁当は駄目なんじゃなかったのォ?」
「仕方ないからな、今日だけだ。この美形が選んでやるからバランス良く食べるのだぞ!」
「チッ、腹減ったしさっさと行くぞ」
荷物から財布を取り出してお前も早く用意しろと急かす東堂に舌打ちをしながら放り投げてあった自分の財布を引っつかんで玄関へと足を向けた。