ダイヤのA

□光舟くんと沢村先輩。
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↓↓光舟くんと沢村の初会話である食堂でのやりとりから妄想スタート笑
会話をガッツリ変えてますが笑






「何号室だぁ!?」
「………号室ですけど。それも関係ないですよね」
「なっ!御幸一也のとこかぁ!!道理で生意気な訳だな!!」
「………あの人のが先輩ですよね」
「くっそ〜!!ほんと腹立つな!」

文句を言いながらも結局浅田が食べ終わるのをその場で待っていた。浅田と一緒に食堂を出る際に振り返った沢村先輩は猫目で睨んできたが全く怖くない。けれど苛立ちは生まれる。ああいう人は嫌いだ。苦手な人種だ。球は、受けたいと思うけど。

「うぷっ」

吐きそうになりながらも最後の一口を食べ終えた俺は練習へと急いだ。





あの日から、何かと沢村先輩が絡んでくる様になった。「ちゃんと3杯食べたのか!?」とか、いちいち煩い。浅田を待っているのなら俺のことは放っておいてほしい。まぁ、絡まれる切っ掛けをつくったのは自分なのだけれど。
遅い時間になり、風呂に入って自販機の前を通過する。少し喉が渇いた気もするが、生憎今は小銭を持っていない。未だに自主練をしているのは見たところ、前園先輩と小湊先輩くらいか。

「………ハァ」

壁に寄り掛かり意味も無く地面を見詰めた。自然と溜め息が出る。早くベンチ入りしたいという気持ちと今のままでは駄目なのだという気持ちに焦りが生まれる。ここが簡単な場所ではないことくらい理解していたつもりだったけど、正直練習メニューのキツさは異常な気もする。それをこなしつつ空いた時間もみっちり自主練。何処かしらで誰かはバットを振っているという状況。これが甲子園を本気で目指す高校球児の本気なのかと感心する。
レギュラーとして結果を出す為に、次こそはレギュラーになる為に、誰もが努力を欠かさない。
俺だって負けるつもりは毛頭ないけれど。まずは食事から克服していかなければと思ったところで再び不意に思い出した食堂での出来事。落ち着いていたはずの苛立ちがするりと顔を出した。部屋へと戻ると、御幸先輩が何かを真剣な眼差しで読んでいた。スコアブックだろう。この人は暇さえあれば読んでいる。

「奥村さー」

突然声を掛けられて少し驚きつつも「はい」と返事をする。

「夕食ん時、沢村の餌食になってんだって?」
「……はい?」
「沢村が騒いでたぜ〜絡まれたとか生意気だとか言って。最終的には同室の俺の躾が悪いってことに落ち着いたけどな」
「何ですか、それ」

御幸先輩は関係ないでしょ。っていうか、そんなことで騒いでるのか、と呆れる。

「あの人、ほんとうざいです」
「はっはっはっ!だよなぁ〜俺もそう思う。…でもまぁそう言うなって」

どうしてこの人はこんなにも楽しそうにあの人のことを話すのか。それに、他の先輩達も。まだ少ししか同じ時間を過ごしていないけど、先輩達があの人を可愛がっているのが伝わってくる。球種に魅力は感じるけど、それ以外は煩いだけだろ。煩いのは拓だけで十分だ。まぁ拓もあの人程煩くはないけど。

「馬鹿は馬鹿なりに努力してるんだぜ。っていうか、此処にいる誰よりも努力してる。小湊から聞いたけど、ゾノですら尊敬するって認めてんだからな」
「………」
「納得いかないって顔だな。まぁそりゃそうだ。お前あーいうの苦手だろうしな」

笑う御幸先輩を睨むが、ムカつく笑顔で跳ね返された。

「…もう寝るのか?」
「まぁ、もう少ししたら」
「ならちょっと付き合えよ」

寝ると言ってしまえば良かったと後悔しつつ、御幸先輩と部屋を出る。何処に向かっているのか解らないが、この人は意味のないことをしないだろうなという確信があったから聞かずに大人しくついて行った。さっき居たはずの前園先輩と小湊先輩の姿はもうなくて、流石に終わらせたのかと思う。あまり遅くまでやれば明日に支障が出るかもしれないから当然だろう。

歩いていた御幸先輩が突然脚をぴたりと止めた。何だ?と思った瞬間、聞こえてきたのは苛立ちの原因の声。

「おいしょーーーっ!!」

ボスッという音も聞こえ、ネットに投げ込みをしているのだと悟る。御幸先輩と共に体育館の中を覗くと、予想通りの光景があった。

「うおっ!?何か今のいい感じじゃね!?」

大声で独り言を言いながら同じ掛け声で何度も球を投げる姿をジッと見詰めていると、御幸先輩の手が俺の頭をぽん、と撫でた。

「な?アイツは誰よりも努力してんだ。だからこそ人にも言えるんだよ」
「………」
「まぁ、そろそろ切り上げさせねぇとだけどな」

そう言って笑った御幸先輩は優しい眸を沢村先輩に向けた。
別に俺は、あの人の実力は認めてる。今までだってあの人のピッチングは何度か見てきたし、素直に凄いとも思った。多分、実際に打席に立たないと、ボールを受けてみないと解らないくらいの癖球なのだろう。だから、それとこれとは別問題だ。

「お、御幸やないか」
「こんばんわ」

その声に振り返れば、もう部屋に戻ったのかと思っていた二人の先輩。

「ゾノ、小湊。どうした?」
「沢村まだやっとるんやろ?そろそろ終わらせなあかんと思って呼びに来たんや」
「そっか。じゃあ後は任せた」
「声掛けてかないんか?」
「ん?必要ねぇよ。…奥村、行くぞ」

歩き出す御幸先輩について行きながら後ろから聞こえてくる声を耳が拾っている。「栄純くーん」という高めの軽やかな声に「春っち!ゾノ先輩!!」という顔を見なくても分かる嬉しそうな声。

どくん、と鼓動が鳴る。

また募る苛立ち。そして、沢村先輩に対して感じるこの苛立ちに何だか違和感を感じた。

部屋に戻ると御幸先輩は椅子に座り、机の上に出したままだったスコアブックに目を通し始める。結局俺を連れ出したのは沢村先輩を見せる為だった。

「………寝ないんですか」
「これから約束があるんだよ。あ、お前は寝てていいぞ」
「……」
「はっはっはっ、無視かよ、まぁいいけど。おやすみ」

何も言わずに布団の中に潜り目を閉じる。やはり今の生活にまだ身体が慣れていないのか疲労が溜まってるらしく一気に睡魔が襲ってきた。スコアブックのページを捲る音だけが優しく響く。もう少しで眠りにつく、そんな時だった。こんこん、と部屋のドアがノックされたのは。他の部屋に行ってる先輩が戻ってきたのかと思いながら意識を手放そうとした瞬間、ガチャッとドアが開いた音と共に「御幸先輩」という声が聞こえてきた。一気に意識が浮上し目が冴える。

沢村、先輩…?なんで?

「おせーよ沢村」
「風呂、入ってたもんで」
「風呂?にしては早いな。また烏の行水かよ。ま、いいけどな。来いよ」
「ちゃんとのんびり湯に浸かりやした!!勝手なこと言わんでください!!」
「お前なぁ、奥村が寝てんだから大声出してんなよ。疲れも溜まってるだろうしお前が静かにしてれば起きねぇから」

起きてますよ。っていうか、今から何が始まるんだ、という疑問は直ぐに消えた。

「御幸先輩、最近構ってくれやせんね」
「いやいや。構いまくりだろ。でもそうだな、沢村不足かも」
「しょうがねぇっすけどね、ここ寮だし」

この二人の会話。何だかおかしい気がするのは気のせいか。捕手と投手のする内容ではないと思う。人を好きになったことすらない俺でも何となく悟ってしまうこの甘ったるい空気。この状況は一体。

「沢村、そこ座って」

その言葉に思わず目を開けると、言われるままに床に正座をした沢村先輩の正面に移動した御幸先輩が膝立ちになり、上から覆い被さる様に抱き締めた姿が目に入った。見てはいけないものを見てしまったのではと急いで目を瞑った。

頭の中が混乱しそうになる。あれはどういうことだ。つまり、二人はそういう関係、ということなのか。男同士で?

「み、ゆき…せんぱ…力、強すぎっす」
「んー?だって今の内に補充しとかなきゃだろ」
「じゃあ、いっぱい、してください」
「………微妙にエロいこと言うのね、お前」
「はい?」

どくん、と鼓動が大きく鳴り、もう既に遅いが耳を塞ぐ。もういっそ、ここで起きてしまおうか。そうすればこれ以上先の展開に持ち込まれずに済むだろう。そう思い恐る恐る目を開けた瞬間、御幸先輩とばっちりと視線が交わった。起き上がるつもりだったから好都合で、このまま終わってくれるだろうとホッと溜め息をつくと、御幸先輩はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。そして知る。この人は俺が起きていることを知った上で今までの行為をしていたのだと。

「沢村、ほら、口開けて」

早く、と沢村先輩の頬をするりと撫でた。

「…ぁ」
「そうそう、いい子」

沢村先輩の口に御幸先輩が人差し指と中指を突っ込んだ。苦しいのかあの大きな眸に涙を浮かべる沢村先輩がはっきりと見えた瞬間、ヤバイと思った。

「沢村…指じゃ嫌だろ?」
「っ、う……やら」
「じゃあ、どうして欲しい?」

その問い掛けと同時に沢村先輩の口内からずるりと唾液で濡れた指が抜かれる。本当に御幸先輩は嫌な人だ。きっと先輩は、俺と沢村先輩両方に対して意地の悪い行為をしてる。だけど、沢村先輩のとろりと溶けた表情からは視線が逸らせない。

「キス、して、御幸ぃ……」
「どんな風に?」
「っ、う…舌、入れて、ぐちゅぐちゅって…唾液、いっぱい絡めて……」

御幸先輩はにこりと笑った。

「ん、りょーかい」

御幸先輩は満足げに優しく頭を撫で、そのまま唇を重ね合わせた。上を向かされてキスをする沢村先輩の口端から唾液が垂れてきている。

「御幸先輩…今日は、その…本当にシねぇんですか?」
「あぁ、時間も時間だしな。つーか何だよ沢村、呼び出した時はあんな渋々みたいな顔しといて、本当はヤりたかったんじゃねぇか」
「ち、ちげぇし!!自惚れんな眼鏡!!」
「はっはっはっ!お前ほんっと可愛いなぁ。でも、セックスはまた今度。それに…」

ちらりとこっちに視線を寄越した御幸先輩が意地の悪い顔で口角を上げた。

「奥村もいるし、な」
「そ…そう、ですよね」
「なーに今更真っ赤になってんだよ」
「いや、だって…途中で起きられちまったら、見られるとこだったんだなって思うと…」
「興奮した?」
「んなわけねぇだろ!!恥ずかしいんだよクソ眼鏡!!」
「はっはっはっ!俺先輩な」

今そんだけ騒いでいてそれでも俺が全く起きないことの意味に気付いてくださいよ沢村先輩。甘ったるい空気に吐き気がする。なんだこれ。なんで俺はここに居るんだ。いや、むしろ御幸先輩が他へ行ってくれれば良かったんだ。そうすればこんな場面見なくて済んだのに。……そうじゃない。見せ付ける為にわざわざ呼んだのだろう。本当にムカつくくらいに性格が悪い。

「御幸先輩…好きって言ってくださいよ」
「……」
「アンタ今すげぇ嫌そうな顔したな!?」
「はっはっはっ」
「笑って誤魔化すな!!…好きじゃ、ないんすか」

声だけで落ち込んでいるのが分かる。この人は良くも悪くも分かりやすい人だ。

「べ、別にいいっすけどね!気にしてやせん!!」
「…ったく、可愛い奴。好きに決まってんだろ」
「………」
「好きだよ、沢村」
「んッ…ふ…」

愛しい、という感情を全て込めた様な甘い声。共に贈られたキスに沢村先輩は幸せそうに目を閉じた。
"好き"という一言を一度拒んだ理由はただ、不貞腐れる沢村先輩が見たくて少しからかってみたというところか。

「で?俺にだけ言わせてお前は言ってくれねぇの?」
「………好きです、御幸先輩」

照れ臭そうに目を伏せながら小さく言う沢村先輩の頭を優しく撫でた御幸先輩は満足そうに笑っていた。

「じゃあ俺は戻りやす!!おやすみなさい!」

バタンッと大きな音をたててドアを閉めた沢村先輩は俺が起きてしまわない様にもう少し配慮した方がいいと思う。まぁ、元々寝ていないけれど。それより、だ。

「……どういうつもりですか、先輩」
「なーに怒ってんだよ。お前だって狸寝入りしてただろー?」

確信犯の癖して軽く笑い飛ばしながら言う御幸先輩を睨むが一切気にする様子はない。そんなところが腹立たしいというんだ。

「まぁそういうことだから。あの馬鹿は俺のなんで、変な気を起こさない様に」

ニヤニヤしながら言ってくる御幸先輩に向かって全力で枕を投げ付ければ見事に顔面にぶつかり落ちた。

「…お前なぁ」
「アンタから正捕手の座もあの人も、奪い取ってやる」
「……やれるもんならやってみな。受けてたつぜ?」

その余裕面、絶対に崩してやると心に誓った夜だった。









END


あとがきは次の頁数にて。
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