艦これ〜ある提督のお話

□雨が降る
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〜side 時雨〜

心地よい雨が僕の体を濡らす。
今日も今日とて、深海棲艦との戦いが始まる。
鎮守府近海を制覇してからと言うものの、深海棲艦の数が目に見えて多くなってきている。
……僕たち、艦娘が頑張らなきゃ。

「…っ!」

ドンッ。

僕は腕に装着している連装砲を敵駆逐艦に撃ち込む。
一撃一撃、正確に。

「グガァァァ!」

「しまっ…」

撃ち漏らしがいたようだ。
しかもこの距離、かわしようがない。
…しかし、僕が被弾を覚悟したその瞬間。

ドゴォォォォォォォン!

耳をつんざくような轟音と共に爆炎が上がり、敵艦があとかもなく消え去った。

「時雨、大丈夫!?」

「…うん、大丈夫だよ。ありがとう扶桑」

あの砲撃は扶桑がしてくれたものみたいだ。
扶桑はいつも僕を助けてくれる。
駆逐艦と戦艦という艦種としての性能差もあるのだろうけれど、それ以上に僕のことを気にかけてくれている。
…扶桑と長い付き合いっていうのが、一番の理由のような気がするけれど。

「…!? 時雨、あれは…!」

「えっ……?」

扶桑が水平線に指を指す。
その先にいたのは。

「……扶桑姉様…?」

「山城……!」

―――

「へえ、それじゃあ山城さんは扶桑さんの妹なの?」

「ええ」

「そっか。姉妹が揃ってよかったよ」

山城は扶桑と一緒に提督の元へ挨拶しにいっている。

「あーあー…せっかくさっきまで私がちやほやされてたのになぁ」

「あれ、君は…?」

見慣れない艦娘がいた。
どことなく霧島に似ている…かな?
服装は…うん、霧島も扶桑たちもあまり変わらないからわからないけれど、扶桑たちは二人姉妹だと聞いているから、おそらく金剛型だろう。

「私は金剛型二番艦の比叡よ。…あの戦艦娘、扶桑と山城だっけ、いいわね姉妹が揃ってるのは」

「?金剛型ってことは霧島と姉妹なのではないのかい?」

「あー…霧島ももちろん姉妹よ?でも私の心は金剛お姉様一筋だから…ああ、金剛お姉様…どちらにいらっしゃるのですか…?」

「……」

これはもしかして。
クレイジーでサイコなレ……いや、千代田と似たようなものなのだろうか。

「お姉様…」

…そっとしておこう。

「時雨」

「あ、提督」

「扶桑さんから聞いたよ、大活躍だったらしいね」

「そんなことはないさ、僕なんかより扶桑の方が凄かったよ」

「いやいや、謙遜しなくていいからね?」

「…まあ、誉め言葉としては受け取っておくよ」

「ん。あとね、これはそのご褒美…になるのかどうかはわからないんだけど、今日の午後は空けてあるから、扶桑さんと山城さんと過ごしておいで」

「え、いいのかい…?」

「かまわないよ。ゆっくりしておいで」

「…ありがとう、提督」

僕は提督に頭を下げた。

「提督!新しい装備が出来ました!」

「わかった!じゃあ時雨、またね」

提督は夕張に呼ばれていってしまった。
提督、提督の仕事頑張ってね。

―――

「……本当に久しぶりね、時雨」

今、僕は扶桑達の部屋にいる。
扶桑にお呼ばれされてここに来たのだけれど、その扶桑は先程の出撃での小破した艤装を直すために入渠中だ。
だから、この部屋には僕と山城しかいない。

「そうだね…あの頃とは随分と見た目が変わってしまったけれど」

僕たち艦娘は元々は大日本帝国所属の艦だ。
今の僕たちの体がどうしてこんな姿なのかはいまいちよくわからないけれど、魂は間違いなくあの頃と同じなのだ。
だから、初対面の艦娘でも誰なのか、魂が知っているんだ。

「でも、時雨は可愛いと思うわよ?」

「そ、そんなことはないさ。山城の方こそ美人だよ。扶桑だって凄く美人だし…」

「そうね、扶桑姉様は凄く美しかったわ…」

幸悦な表情を浮かべる山城。
…もしかして、山城もそっちの人なのかい…?

「…あら、時雨、その髪飾り」

「これかい?僕が気がついたときからつけていたんだけど……あ、山城もつけてるんだね」

「ええ、そして扶桑姉様も同じものをつけていたわ。でも扶桑姉様と私はともかく、どうして時雨まで?…まさか」

山城は唐突に曇った顔をした。

「時雨」

山城はぐいっと僕に身を寄せ、そのまま抱きついてきた。

「…あの時は、遺してしまってごめんなさい」

…彼女は少し震えている。
…もしかして、この髪飾りは。

「…遺品、だと思ったのかい?」

「…ええ」

山城は声も震えだした。

「山城、…今は、君はここにいるだろう?」

僕は優しく、語りかけるように、言葉を紡ぐ。

「僕もここにいるから、君の腕のなかに確かにいるから」

「…僕も君も、いなくならないから」

「今度は、誰もいなくならないから」

「…時雨」

顔を見なくても、山城がどんな顔をしているか、容易く想像できた。
僕は僕より一回り大きな山城を、両腕で抱き締めた。

その時。

「山城、時雨、ただいま。…あらあら、どうして二人ともそんなに泣きじゃくっているの?」

え……?
僕、今泣いているのかい…?
気が付くと、頬につーっと、滴が伝っていくのを感じた。

「なにも悲しいことなんてないでしょう?」

そう言うと、扶桑は僕と山城を抱き締めた。
「姉様……っ!」

山城は扶桑の胸でおもいっきり泣き始めてしまった。
…なんて、冷静に思うだけなら思えるけれども。

「扶桑……っ」

…僕も、涙が今度こそ気づいてしまうくらいに泣いてしまっているのだけれど。

―――

あのあと、すっかり日がくれるぐらいまで僕も山城も泣き続けてしまっていた。
もう遅くなったし、と言うことで僕は扶桑達の部屋にお泊まりすることになった。

「それじゃあ、明かり消すわね」

ぱちっ、という音と共に、部屋が真っ暗になる。
見えるのは隣にいる山城と、微かに見える扶桑だけだ。

「…ねえ、姉様、時雨」

「なんだい、山城」

「どうしたの?山城」

「…手、繋いでもいいかしら」

「…ん」

山城の手を優しく握る。
あったかい。
…もう、この温もりを失いたくないな。

「もう、山城は甘えん坊さんね」

「…姉様と、時雨の前だけよ」

この暗さでもわかるぐらい、山城は顔を真っ赤にしていた。
…うん。
絶対に扶桑も山城も、僕が守ってみせる。
あの時と同じようなことにはさせない。

「山城、扶桑」

「…僕が、守るからね」

二人には聞こえないように、そっと呟いた。
…山城が強く僕の手を握った。
山城だけには聞こえてしまったのかな……。

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