艦これ〜ある提督のお話

□sister's noise
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夕張さんとちょっとした秘密を共有して少したった後、鎮守府はずいぶんと賑やかになった。

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!」

「多摩!球磨のプリンしらないクマ?」

「ギクッ!?ぷ、プリンなら木曾が食べたニャ!」

「……多摩、嘘つくなら口元のプリン拭いてからにしろよ」

「ニャ!?…に、逃げるニャ!」

「待てー!クマ!」

…なんか本当に戦争してるのか不安になるぐらい賑やかである。
その一方で。

「はぁ……空はこんなに青いのに、どうしてここには山城がいないのかしら……」

「扶桑、きっと山城も時期に来るよ。そうしたらまた僕たちで組んで出撃しよう」

「そうね…。時雨は本当にいい娘ね」

…山城さんがうちの鎮守府にまだ来なくてごめんなさい。

「はぁ……どうして千歳お姉と会えないのかしら…」

「大井っちー…いつになったら来るのさー」

…というか。
艦娘が増えてきている今、ある問題が起こっていた。
姉妹艦が揃わないことによる一部艦娘のモチベーションの低下である。

「よう提督!…ってなんなんだよこの空気は…」

「天龍…それがね…」

かくかくしかじか

「へぇ…そんなもんかねぇ、俺は龍田と一緒だったしわかんねえや」

「だよねー…、気にしてなさそうな娘もいるけど多分心のそこでは…って思っちゃうからすこし辛いんだよね」

「だろうな…でもこればっかりはどうにもなんねえしな」

天龍と二人で頭を抱える。

「…そういや、提督は兄弟とかいないのか?」

「…いたよ。…もう、いないけど」

「あー……悪ぃこと聞いちまったな、ごめん」

「いや、知らなかったんだし仕方ないよ」

……兄弟、か。

―――

ドッグにて。

「おはようございます、提督!」

「おはよう、夕張さん。今日も開発?」

「はい、いつも通り任務指令分開発中よ」

「ん、ありがとう」

鎮守府に来てまだ日は浅いけども、夕張さんはいつもよくやってくれている。
秘書艦の仕事も忙しいのに、兵器開発にも尽力してくれている。

「あ、あと提督、新しい艦娘がもう少しで来ますよ。多分戦艦の艦娘だと思う」

「戦艦?…山城さんならいいんだけれどね」

「へ?どうしてですか?」

「あー……それがね」

かくかくしかじか

「なるほど、姉妹艦か……私は一人っ子なのであんまりわかんないかな」

「…そっか」

…一人っ子って、ある意味幸運じゃないのだろうか、と思ってしまう。
自分と、夕張さんと、姉妹がまだいない艦娘達を見ると思わずにはいられなかった。

「…あ、提督!新しい艦娘来ました!」

と、夕張さんがドッグに指を指す。
…いつも思うけども、兵装はともかくこれどこから女の子が出てくるんだろうか。
ドッグの中から出てきたのは、巫女装束に身を包んだ女性だった。
でも扶桑さんの巫女装束とは何か違う、それにあまり扶桑さんとも似ていなかった。

「マイク音量大丈夫…?チェック、1、2……。よし。 はじめまして、私、霧島です」

「霧島…?」

霧島、その名前には聞き覚えがあった。
日本がまだ艦娘達のなかった頃、深海棲艦とイージス艦で戦っていた頃に前線で戦っていた艦だ。
もっとも、当時活躍していたイージス艦のほとんどは深海棲艦によって轟沈しているのだけれど。

「あら、私をご存知なのですか?」

「ううん、ただ同じ名前のイージス艦の方思い出しちゃって」

「ああ…きりしまですね、私も存じております。…立派な最期を迎えたとお聞きしましたが」

「…そうらしいね」

「…ところで司令、私の他には金剛型はいないのですか?」

「金剛型?」

「はい、私は金剛型四番艦で、姉が三人いるのです。長女の金剛お姉さま、次女の比叡お姉さま、そして」


「双子の姉の榛名です」

……ああもう。
どうして今日はこんなにもいろんなことを思い起こさせることばかりなんだろう。

―――

あの後、夕張さんに霧島さんを任せて僕は港に出ていた。
…本当に、今日はなんだかモヤモヤする日だ。
父さんと兄さんが乗り込んで戦っていた艦、はるな。
その由来はかつて存在した戦艦からとられていると聞いてはいた。
…でも実際こうして関わるとはそこまでは思っていなかった。

「…何を考えているんだろうね、僕は」

水平線の向こうを見つめながら、僕は呟いた。

「…また書類整理始めなきゃな」

僕は提督室に戻ろうとしたその時。

「司令官さん?」

「あ…電、どうしてこんなところに?」

「今日演習に出る暁お姉ちゃんを見送りに言っていたのです、そういう司令官さんはなにをしていたのです?」

「いや…特になにかをしていたわけでは」

「…」

電は僕の顔を覗きこむように見つめてきた。

「…司令官さん、電にもわかるくらい顔がひどいことになってるのです」

「え…?」

「悩み事があるなら、電がききますよ?」

「…いや、悩み事なんてないよ。…悩み事、というか、ね」

「…そうなのですか」

…ごめんね、電。

「…でも、もしもうだめだ、ってなったら、電を頼ってくださいなのです」

「…うん。ありがとう電」

僕は電の頭に手をあて、撫でた。

「!?あ、あの司令官さん!?」

「ん?……あ」

何故か無意識に撫でていた。
…なんでなんだろうか、不思議だ。

「ごめんね、急に触れたりしちゃって」

「い、いえ、いやとかそういうのではないのです、ただおどろいたというか」

「…そっか」

…本当に、電はいい娘だと思う。
…なんかモヤモヤしたものが少し晴れた気がする。

「ありがとうね、電」

「え?電はなにもしてないのです」

「いや…ちょっと気が楽になったよ、ありがとう」

「…それならよかったのです」

―――

その後、落ち着きを取り戻した僕は提督室に戻り、書類整理をしていた。

「提督!第一艦隊帰投したぜ!」

「お疲れ様、戦果はどうだった?」

「鈴谷達の完全勝利だよ!これで鎮守府近海は大丈夫っしょ!」

鈴谷さんはおおはしゃぎしていた。

「今日鈴谷すごかったんだぜ提督、敵艦隊をちぎっては投げちぎっては投げでさー、俺も鈴谷みたいにやりたかったぜ」

天龍がそこまで言うんだから相当な活躍だったみたいだ。

「提督、鈴谷誉められて伸びるタイプなんです。うーんと誉めてね!」

「うん、鈴谷さん頑張ったね」

「あ、ご褒美は間宮さんのアイスでいいよ!」

「いやいや鈴谷、それは欲張り過ぎだろ…」

「いーじゃんいーじゃん!提督、お願い!」

「…そうだね、特に今回は鎮守府近海を完全制覇達成したわけだし、アイスと言わず明日パーティーでもしようか」

「マジすか!?やった!鈴谷これからも頑張っちゃいます!」

「現金な奴だなお前は…まあいいか、俺はみんなに伝えてくるぜ」

「鈴谷もいってきます!提督また後でね!」

二人とも、元気よく出ていった。
…とにかく、明日はパーティーだ。
パーっとやって、みんな元気になったらいい。
まだ姉妹艦の問題があるけども、少しは紛れてくれるといいな、と思いながら、僕は筆を再び走らせた。
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