艦これ〜ある提督のお話
□秘密ください
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「…いい朝だ」
昨日鎮守府に着任したばかりなのにいい朝だ、と呟けるほどの余裕があるのはどうしてなんだろう……。
「まだ仕事の時間まで余裕あるし…録画してたの見ようか」
僕の朝はBlu-rayの録画消化から始まる。
…これから見れる日も少なくなるんだろうなぁ。
エガオモナーミダモキットスベーテー
「…またちょっとしたらみんな起こしにいこうか」
―――
結局一つだけしか消化出来なかった……。
これもう戦争終わるまでアニメ見れそうにないなぁ…。
僕はそう思いながら艦娘達をおこしに向かっていたのだった。
「夕張さん、起きてますか?」
ノックしながら声をかける。
しかし返事はない。
「……♪」
……でもなんか声はするんだよね、起きてるのかな…?
「…夕張さん、入るよ」
とりあえず入ってみる。
「…!?て、提督!?」
「あ、やっぱり起きてたね」
夕張さんは小型テレビにかじりついていた。
「え、えもしかしてノックしてたの!?ご、ごめんなさい提と」
夕張さんがこちらに振り向いたとき、ブチッ、と何かがちぎれる音がした。
その瞬間。
セイナールウ゛ィジョン!STANDPROUD!
「あっ……」
「あっ……」
こ、これは。
どことなく奇妙な冒険な歌が。
「……あ、あの提督、これはですね」
「……夕張さん」
「は、はい」
「……面白いよね、ジョジョ」
その瞬間、夕張さんは万円の笑みを浮かべた。
―――
暁と電を起こし、建造を仕込んだ後、僕らは食堂であることを決めていた。
「……というわけで、秘書艦は夕張さんに任せたいんだけど……いいかな?」
「ええ、わかったわ。任せてちょうだい」
秘書艦を誰にするか、である。
僕としては結構長引きそうな話になるかと思っていたが、すんなりと決まってしまったのだった。
暁あたりは反論するかな?と思ってたのだけれど、意外とすんなり。
そして僕が直々に任命した夕張さんも二つ返事で引き受けてくれた。
僕が夕張さんを秘書艦に選んだのは朝の件……ではなく、昨日の地点で決めていた。
理由としてはこの中ではもっともしっかりしてそうだから、というシンプルな理由なのだが。
「さてと、そろそろ建造も終わってるだろうしドッグに向かおうか」
「はいなのです」
僕らはドッグへ向かおうと……
「おっと待ちな、その必要はないぜ」
…食堂の出入り口に見慣れない女の子がいた。
そしてもう一人、彼女を追いかけるように女の子が現れた。
「はぁはぁ…天龍ちゃん、もう少しゆっくり走ってくれてもいいんじゃない?」
「おいおい龍田、俺そんなにも早く走ってないぞ?」
「天龍ちゃんのそんなにも早くないは私には早いんだよぉ…」
どうやら二人は天龍と龍田というらしい。
「あ、もしかして新しい艦娘の方なのです?」
「おう、俺の名は天龍、よろしくな!」
「私は天龍ちゃんの妹で龍田だよ、天龍ちゃんともどもよろしくね」
「よろしく、天龍さん、龍田さん」
「天龍、でいいぜ、提督俺とそんなにも年変わんないみたいだしさ」
「私も、龍田、って呼んでいいよ」
「わかったよ、天龍、龍田。…ところでさっきも言ってたけど本当に姉妹なの?」
「そうだよ、天龍ちゃんと私は仲良し姉妹なの〜、ね?天龍ちゃん」
龍田は天龍に抱きつく。
「ちょ、龍田こんなところで抱きつくなよ!」
「えー、じゃあ二人きりならいいの?」
「そういう問題でもねぇ!」
「……ね、ねぇ電、私たちも…」
「?」
「な、なんでもないわ」
…駆逐艦達にはまだ早いような気がした。なんとなく。
―――
「それじゃあ提督、いってきますね――って待っておいてかないで!」
「いってらっしゃい、演習頑張ってね」
みんなはこれから演習だ。
僕は居残って書類仕事と建造と武器開発のお仕事。
「しかし一人は寂しいな…」
とりあえずドッグに向かって武器開発してみよう。
建造はさきほどオーダーを行っておいたので、武器開発に専念できる……
「ん?妖精さん?」
急に妖精さんが現れた。
何やら紙を持っている。
「なになに……」
"寂しそうな提督に特別に高速建造プレゼント!"
「…高速建造?」
妖精さんはこくりとうなずく。
いや、言葉の意味はわかるんだけどさ……。
「てか、もう来てるし」
「!?」
「重巡洋艦鈴谷だよ!よろしくね!んでもしかして鈴谷がこの鎮守府一番乗りだったり?」
「あー……今他のみんな演習いってるんだ」
「お、じゃあ今は鈴谷と提督の二人っきりってこと?」
「そうだね」
……なんか言い方が含みあるような。
「…どうする?なにする?」
「なにするって……なにしよっか?」
普通に考えたら鈴谷さんを案内しなきゃいけないんだけども。
「んー……じゃあ鈴谷とイイコトしよっか」
「いいこと?」
「そ、イ・イ・コ・ト」
……いいこと?
鈴谷さんはそういうとぐいっ、と迫ってきた。
「わっ、ちょ、鈴谷さん!?」
「提督はこういうこと嫌い?」
「そ、そういうわけじゃないけど!でもこういうことはちゃんと順序を……」
「……ぷっ」
「…へ?」
「…ぷははははっ、提督面白い!いくら鈴谷でもあったばかりの人誘わないし!」
「…もしかして、僕からかわれてた!?」
「あはは、ごめんごめん、ちょい提督がどんな人かなーって試しちゃった」
「た、試すって…」
「まあでも提督、わりと鈴谷の好みの顔だからもしかしたら惚れちゃうかもね」
「えっ」
「あはは、やっぱり面白いね提督は!じゃあ鈴谷は鎮守府探索にいってくるね、それじゃあ後で!」
…いってしまった。
「……変わった娘だ…」
―――
その後、演習からみんなが帰ってきた。
初演習の結果は上々のようで、特に天龍が嬉々としていた。
午後も演習にいってもらい、やはり上々の結果だったらしい。
そして、鈴谷さんもみんなと馴染めたみたいだ、よかった。
「…よし」
僕は書類整理を終わらせて、さぁ寝ようか、と思っていた。
…のだけれど。
コンコン
「?誰だい?」
「提督、夕張です。入ってもいいですか?」
「うん、どうぞ」
「失礼しますね」
「夕張さん、こんな遅くにどうしたの?」
「えっとですね、提督…その…」
何故かどもる夕張さん。どうしたのだろうか……。
「……あのアニメの裏番って録ってませんか…?」
「あー、そんなこと?」
「そ、そんなことって提督!……だって、提督は違うかもしれませんけどサブカル系が好きな女の子を引く人だっているんですよ!」
「んー……僕は違うから安心して?」
「でも……」
「…じゃあこうしようか、このことは僕と夕張さんだけの秘密」
「…いいの?」
「むしろほかにどうすると思う?」
「…いえ……」
夕張さんはしばらく考え込むような仕草をした。
「…ありがとうございます、提督」
…こうして、僕と夕張さんはちょっとした秘密を共有することとなった。