艦これ〜ある提督のお話

□CROSS × OVER SENSATION
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タッタッタッタッ…。

呼吸が乱れるほど走るのは久しぶり。
…どうせなら、いい理由で走りたかったけれど。
そうして、ついた部屋のドアを開ける。

「霧島さんっ!」

ベッドの上には痛々しい姿をした霧島さん。
そのそばで寄り添っている金剛さんと霧島さんほどではないけれど傷だらけの比叡さん。

「提督…ごめんなさい、私がしっかりしていないばっかりに…」

「ううん、比叡さんは頑張ってくれたよ…悪いのは僕の作戦だから」

「でも…霧島が…」

霧島に目を向ける比叡さん。

「…魘されてる、ね。でも生きて帰ってきてくれたならまだ希望はあるよ」

僕は傷だらけの霧島さんの手をとった。

「…帰ってきてくれて、ありがとう。霧島さん」

早く目を覚まして、みんなに元気な霧島さんを見せてあげてね。
そうして、振り向いて比叡さんにも。

「…ありがとう、比叡さん」

「…はい、ありがとうございます…提督」

…まだしばらくは比叡さん凹んだままかな。
早くいつもの比叡さんに戻ってね。

「金剛さん、二人がしばらく出れないからその分頑張ってもらわなきゃなんだけど…」

「まかせて下サイ、sister達の仇は絶対にとって見せるネ」

金剛さんにもいつもの有り余る元気がない。
姉妹が大変なんだもの、仕方ないよね…。

「比叡さんももう休んで?今日はもういいから」

「はい…ありがとうございます」

「さてと…それじゃあ僕は戻るね、他のみんなのところにもいかなきゃいけないから…」

…霧島さんと比叡さんだけじゃない。
千代田さんと那智さんも相当の重症を負ったと聞いている。
今までこんなことなかったのに…もしかしたら、敵の練度が跳ね上がっているのかもしれない。
…早く、あれを使いこなせるようにならなきゃ。

―――

翌日、僕は非番だった。
といっても、今日は多分みんなのお見舞いに翻弄される一日だろうけれど。

…と、思っていた時期も僕にはありました。

「テートクぅ!これとかどうデス?似合いますカ?」

「…あのね、金剛さん」

おかしい。
僕はたしか金剛さんにお見舞いのフルーツを買いにいくから付き添ってって言われただけのはずなのに、何をしているんだろう…。

「お見舞いの品買いに来たんだよね?」

「そーデス!そしてもうfruitは購入済みデース」

「そうだね、僕が今持ってるもんね、…でさ、ここはどこだと思う?」

「ドコって…」

金剛さんは周りを見回す。

「テートクにはココがブティック以外の何に見えるんデス?」

「そうだよ!僕服買いに来たんじゃないよ!」

しかも、周りは女性ものばかり。
目的云々もだけど、恥ずかしいよ!

「マーマーテートク、霧島も目を覚ましたしダイジョウブネ」

「そういう問題じゃないよ!」

もう、誰か助けてよ!

「あら、今日は違う女性と一緒なのね?」

…カチン。
空気が凍る音がした。

「テートク?それはどういうコトデス?」

「え、ちょ、待って、誰!?」

「誰かは存じ上げませんけどthank youネ、テートク、浮気は許さないネ…」

「待って、そもそも僕金剛さんとは恋人でもなんでもないよ!てかいい加減なこといったのは誰!?」

声のした方に振り向く。
…あ。
この人は。

「…うん、前瑞鶴と一緒の時に会ったね」

「瑞鶴と!?Fuck!あの空母帰ったら〓してやるネ…」

「〓しちゃダメだし僕は馬に蹴られて地獄に落ちるような真似しないよ!」

てか、仮に手を出したら加賀さんに僕が〓されちゃうよ!

「…ふふ、前の時と違って随分賑やかな人といるのですね?」

「…テートク?この人は?」

「ああ、この人は…」

しまった。
僕名前知らない。

「前は名乗り忘れてたわね、ごめんなさい。私は陽菜、よろしくね?」

「…だ、そうです」

「ハルナ…いい名前ね」

「そうだ…え?」

待って。
金剛さんが姉妹以外の女の人を誉めた…?

「金剛さん、熱でもあるの?」

「熱デスカ?テートクにならお熱デスガ」

「うん、そんなこと微塵も聞いてないよね」

「もしかしてワタシが女を誉めたことを珍しがってるネ?いくらなんでもそれはひどいデース」

…ひどい…の…か?
でもさっき瑞鶴のことボロクソに言ってたような…。

「いいデスカ?ハルナ、と言えばワタシのいとおしい妹の内の最後の一人、榛名と同じ名前デス、いい名前に決まってるネ」

「…ああ、そっか」

榛名。
その名前を聞いたのはいつ以来だろうか?

「…テートク?どうしたデース…?」

「ううん、なんでもないよ。陽菜さんは…って、聞かなくてもわかるか、ここブティックだもんね」

「さん付けしなくても結構ですよ?陽菜、とお呼びください」

「え、でも…」

「Ok陽菜、ワタシは金剛デース」

金剛さんはもうすっかり順応している。

「それでなぜここに?と言うことですけれど、実はこれを返しにいくところで」

と、陽菜さんが取り出したのはあの時の傘だった。

「はい、お返ししますね」

「はい」

僕は差し出された傘を受け取った。

「それでですね、できればなにかお礼がしたいなーって、よろしければお茶でもどうですか?」

「Oh!teaデスか!テートク、私も行きたいデス!」

うーむ。
まあ時間はあるし…いいかな。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

―――

「…OK!なかなかのteaネ!」

陽菜さんに案内してもらったカフェは、なかなかいいところだった。

「やっぱりtea timeは大事にしないとネー!」

金剛さんも大満足のようだ。
かくいう僕も美味しいカフェラテに満足なのだけれど。

「ただやっぱりテートクと陽菜の飲むソレだけは理解できないデース、やっぱりteaが一番ネ」

「あら、それは本場のコーヒーを飲んだことがないからじゃないかしら?」

「ウーン、…そうデス!テートクこの間ワタシというものがありながら午後teaを飲んでたんデス!どういうことか説明Please!」

「しれっと話題を変えてきたね、でも金剛さんの出撃帰りの話だよね?」

「なおさらデス!あんなの飲むくらいならワタシを待機させてtea timeの時に呼んでくれれば…」

「…ふふ」

不意に、陽菜さんが笑い出した。

「どーしたデス?」

「いえ、なんかおかしいなと思って。お二人は付き合ってはないんでしょう?なのにまるで彼氏彼女のそれみたいに見えて」

「…」

ぽかーんと、硬直する金剛さん。
…あーあ。

「…そうデス!この機会にワタシとlovevsになりまショウ!」

「いや、ならないから」

しかし、僕の声なんて耳に届いておらず、金剛さんは妄想の世界へ。

「テートクぅ…want you kiss me…」

しかもおもいっきり唇をこっちに向けてきてる。
この人キスする気満々だ。

「は、陽菜さんガード」

僕はとっさに陽菜さんの後ろに隠れた。
と同時に、金剛さんは物凄く不服そうな表情になった。

「Oh…それは卑怯デース…」

「あはは…」

苦笑いを浮かべる陽菜さん。
その時。

キズナノツヨサーココローザシー♪

「あ、電話」

僕はスマホを確認する。

「…夕張さん?」

「なんか今の着信音、加賀の声に似てたデース」

まあそれはわからなくもない。
加賀さんみたいな声なんかいろんなところで聞くような気がするんだよなぁ…

「もしもし」

『もしもし、提督ですか?』

「うん、どうしたの夕張さん」

『それが…』

僕は夕張さんの話に耳を傾ける。

「うん…うん…わかった、すぐ戻る。それじゃあ切るね」

「テートク、何のcallデスカ?」

「遠征部隊が帰艦したって、僕らも戻ろうか」

「…オーケー、陽菜、teaありがとうデス、私達は鎮守府に戻りマス」

「え、ええ…」

唖然とする陽菜さん。

「それじゃあまた」

まあうん、あまりいい気はしないけれど…。
…しかし、夕張さんからの電話は急務を要する内容だった。
金剛さんもどうやら察してくれているようだ。
僕らはそのままその場を去った…。

「どうしたのかしら…あれ、これは…」

−−−

「それじゃあ、話を聞かせてもらえるかな」

場所は僕の執務室、目の前にいるのは遠征に出ていた陽炎型駆逐艦娘であり、最近配属された陽炎、不知火の二人、そして島風と那珂さん。

「もうなんかすっごいのが!」

「那珂ちゃんあんなのがいたらお仕事出来ないよ!」

「スッゴい早かった!でも私よりは遅いけどね!」

「…」

ものすごい形相で不知火が三人を睨み付けていた。

「あーうん、不知火、話してくれる?」

「わかりました。…あなたたちはもう少し落ち着きを覚えなさい」

三人を一喝すると、不知火は静かに話始めた。

「…私達が発見したのは、異様な雰囲気を放っている小島です。ものすごいプレッシャーを感じ、その島を調査しようと陽炎姉さんの提案で私達は調査を始めました、そして私達が見たのは…」

「…敵の前衛基地、と半ば化していた島、そして圧倒的なプレッシャーの元、黄色い深海空母」

極めて強い意思を持った眼で、不知火は言った。

「私達はプレッシャーに気圧されて逃げ帰ってきた、…本来なら無様なんてどころの騒ぎじゃないけれど、あれはどうしようもないかもしれないわ…」

ぎしっ、と、不知火は歯を食い縛る。
心底悔しげな表情から、よっぽどの手練れであったことは容易く想像はつく。

「いや、この情報だけでも大助かりだよ、もし前衛基地が完成するまで僕らが気づけなかったら…」

ゾッとする。
そうなると、そこの基地の深海棲艦との全面戦争は避けられない。
…そうなると、どれだけの被害が出るか。

「すぐに討伐隊を結成しよう、みんな、鎮守府内にいる艦娘に召集を…」

…その時。

「その話…詳しく聞かせてはもらえないかしら…」

「…霧島さん!?」

「霧島、まだ無茶しちゃ…」

霧島さんと比叡さんが部屋に入ってきた。

「ダメだよ!霧島さん今大ケガして…」

「…もしかしたら」

霧島さんは一拍おいて、

「私が遭遇した空母かもしれないんです」

…そう、言った。

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