艦これ〜ある提督のお話

□サムデイ イン ザ レイン
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ザァー……。
季節はすっかり梅雨で、雨は止みそうにない。
先程まで全くといってもいいほど気配がなかったのに、夕立とは困ったものだ。

「困ったなぁ…」

一緒に来ていた赤城さんと瑞鶴は先に帰ってしまっているし、…二人とも無事に帰れたかな?
二人と別れたあとに買ったのはよりにもよって雑誌であり、この雨の中走っていくのは無謀にも等しい。
今日は僕は非番だし、遅くなっても問題はないのだけれど…。
…あ、雨宿り客が増えた。

「はぁ…濡れちゃったわね…」

女の人だった。
少しだけ雨に濡れていて、非常に艶やかな印象を帯びていた。
背丈は僕より少し背が高いかな、ぐらい。

「…あら、どうかしました?」

その女の人に目をとられていたのが気づかれてしまった。
うわ、ものすごい美人。
なんていえばいいんだろうか、大和撫子?
金剛型のみんなの服を着せたら凄く似合いそう。

「あ、いえ、すみません!」

なんか変に力んでしまった。
…うちにもたくさん美人な人はいるけど、その人達に負けず劣らずの美人さんだ。
みんななら毎日顔を会わせてるし緊張しないけど…。

……。

その後、静寂が響いていた。
…気まずい。
あ、そうだ。
本読んじゃお、この本、実は僕のじゃなくて天龍と木曾の本なのだ。
それにこれはみんな大好き週刊誌の兄弟誌。
月一にしか出ないけどそのかわり付録がついてくる。
その付録はお駄賃として僕が貰うことになっている。
その付録剥いちゃえ。

「…あの、ちょっといいですか?」

「ひゃい!?」

うわ、変な声出た。
こんなタイミングで声かけないでよ美人さん!

「えっと、変なこと聞くんですけど」

「変なこと…?」

はて、なんだろう。

「そのですね…私たち、どこかであったことがあるような気がしません?」

「どこかで…?いえ、多分はじめてだと思います」

こんな美人さんなら忘れないだろうし。
それかまさか逆ナ……いやいや。

「そうですか…でも、どこかであった気がするんですよね…」

おずおずと僕の顔を覗き混む美人さん。
ち、近いです、なんかいいにおいします、やめてください倒れてしまいます…。

「うーん……どこでしょう…」

やばい…本当に倒れちゃいそう…。
誰か…たすけ

「提督さん、見つけた!」

「瑞鶴!」

瑞鶴だ、探しに来てくれてたのか…。
瑞鶴は僕が留守の間に加わった艦娘で、凄く親しみやすい娘。
僕が呼び捨てにしてるのは本人が呼ばれ慣れてないから、なんだけど、彼女に関しては親しみを感じるから、だったりする。

「大丈夫?濡れてない?」

「大丈夫だよ、ありがとう」

瑞鶴が僕の傘を渡してくれた。

「あら、あなたの彼女さんですか?」

「かのっ……違います!」

きっぱり否定する瑞鶴。

「提督さんとはただの部下と上司です!それ以上でもそれ以下でもないわ!」

「…あれ、提督さん、ってことは、あなたはそこの鎮守府の?」

「ああ、うん。一応そうなるね」

一応ってかバリバリ提督だけどね。

「そうでしたか…凄く若くてビックリしました」

「提督さんはこんなだけどしっかりしてるのよ」

「待って、こんなって何」

「男の人のわりに小さい」

「瑞鶴よりは大きいでしょ?」

「じゃあ赤城さんは」

「参りました」

ひどいよ瑞鶴。

「さてと…それじゃあ僕は帰ります。…よかったらこの傘使ってください」

「え…よろしいのですか?」

「僕は瑞鶴の傘に入るから、いいよね瑞鶴?」

「別に提督さんが嫌じゃないならいいわよ」

「…それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」

僕は美人さんに傘を渡した。

「…小さな提督さん、お名前をうかがってもよろしいですか?」

「僕の名前ですか?」

僕の名前か。
…名乗るの、物凄く久しぶり。
電と初めて出会ったとき以来かな。

「僕の名前は…松前心晴」

「…心晴、ですか。ふふ、なおさら以前に会った気がしますね…。それじゃあ、またいつか」

美人さんは、そう言って去っていった。

「…提督さんって、心晴って名前だったんだ…」

「名乗ってもみんな提督か司令官としかよばないでしょ?」

「まあ、そうなんだけどね」

―――

帰ってきたらやっぱり、みんなに色々疑われた。
まあ相合い傘してたら疑うよね。
金剛さんなんて傘奪って強引に連れてこうとするし……。

「お、提督じゃーん、お帰り!」

「提督、お帰りなさい」

僕は帰ってきてまず食堂にいった。
お昼までまだ時間はあるのだけれど、鳳翔さんや鈴谷さん、第六駆逐艦隊のみんなが忙しそうに調理をしていた。

「はーい司令官!今みんなでお料理のお手伝いしてるのよ!」

「鳳翔、じゃがいもはこのくらいでいいかい?」

「ありがとう響ちゃん、次は暁ちゃんを手伝ってあげて?」

「あ、暁は一人でもできるし!」

「暁お姉ちゃん…人参の身が皮ごと落ちちゃってるのです…」

「うっ」

…あはは、大変そうだね…。

「暁、人参貸してごらん?」

「司令官…し、仕方ないわね」

僕は暁から人参と包丁を渡して貰った。
しゅるしゅると人参の皮を剥いていく。

「提督、お上手ですね」

「まあ僕は一人暮らしが長かったですから…鎮守府に来たばかりの頃は電や暁、鈴谷さんにも振る舞ってあげたよね」

「なのです!司令官さんのお料理は凄く美味しかったのです!」

「そうだねぇ…あの美味しさには流石の鈴谷さんもマジびっくりだよ」

「レディの舌を唸らせる凄い料理なのよ!」

ちょ、みんな言い過ぎ…。

「へえ…私も食べてみたいわね!」

「私も興味がわいた、食べてみたい」

「提督のお手並みを拝見してみたいですね」

うっ……。

「…ここにいるみんなにだけだよ?晩御飯だけね?」

というか、鳳翔さんまで乗ってくるとは思わなかった。
意外な一面を見た気がする、お母さんオーラ纏っててもやっぱり女の子なんだな。

…ただこの時、少しだけ嫌な予感がしていた。

―――

その嫌な予感は的中した。
どこから漏れたのか、僕の手料理が食べられるという噂とその手料理が絶品であるという噂が鎮守府内に広がり、次から次へと艦娘達が押し寄せてきた。
そうして、僕はほとんどの艦娘の料理を作らなければいけないこととなってしまったのだ。

「というわけなんです、手伝ってください夕張さん、天龍さん、龍田さん、鈴谷さん」

「まあ私たちなら提督の味分かるものね、データもバッチリよ!」

「オレはあんま自信ないけど…」

「大丈夫よー、天龍ちゃんは私がサポートするから」

「ま、鈴谷の本気を見せるときだね!」

「hey!テートクぅ!私にまかせてくだサーイ!」

「「「「……」」」」

「…金剛さん、どうしてここにいるの?」

「もちろんテートクのhelpをするためデース!」

うん、それはたしかに嬉しいけれど……。

「…金剛さん、料理できるの?」

「もちろんデス!英国にいたころには皆に大絶賛してもらったネー!」

英国。
世界で一番メシが不味いことで有名な国だ。…不安だ。

「む、もしかして私の腕を疑ってますカ?なら試してみるつもりで使ってくださいネー!」

「…まあいっか、それじゃあ六人で頑張ろうか」

金剛さんを加えることになった。

「それじゃあ分担は―」

―――

「つ、疲れたネー……」

手伝ってもらったみんなはすっかりへとへとだった。
途中までは問題なかったのだけれど、どこぞの一航戦がものすごい量を取っていくからさあ大変。
…まあ彼女に悪気はないし、美味しい美味しい言ってくれるから作る側としては凄く嬉しいのだけれども。

「お疲れ様、これみんなの分だよ」

僕は全員分の料理を出す。
他の皆にはいっぱい作る都合シチューだったのだけれど、手伝ってくれた皆には特別にオムライスを作ってあげた。

「わあ…提督のオムライス久しぶり…」

「そういや提督が初めて作ってくれたのもオムライスだったよな」

「そいや天龍ってばあの時あんまりにも美味しくておかわりしすぎてお腹壊したじゃん?ホントあの時はおかしかったよねー!」

「そうねぇ〜天龍ちゃんってば涙目で『幸せな腹痛だぜ……』とか言ってねぇ…」

「だーーーーっ!お前らあの時の話はやめろ!」

「デモ天龍から話を振ったのデショ?なら自業自得ネー!」

「うぐっ…お前ら覚えてろよ…」

…ほんと、平和だなぁ。

「ほら、提督もあったかいうちに食べましょう?明日からはまたお仕事なんですから、今のうちに英気を養いましょう」

「そうだね…それじゃあ」

「「「「「「いただきまーす!(マース!)」」」」」」

ガツガツむしゃむしゃもぐもぐはむはむと、皆の咀嚼する音が聞こえる…気がする。

「天龍!ガツガツ音たてて食べるのはマナー違反デース!」

「金剛!龍田みたいなこと言うなよ!」

「天龍ちゃーん?分かってるんなら静かに食べなさい?」

「うぐっ…」

ガツガツは本当に聞こえていたみたい。
ご飯はマナー良く、ね?

―――

〓月△日
雨が降る非番の日。
赤城さんと瑞鶴と買い物にいった。
やっぱりというか赤城さんは出掛けても屋台という屋台を渡り歩き、たくさん食べては瑞鶴に呆れられていた。
その後一人で本を買いにいったけれど、突然の雨で立ち往生してるときに綺麗な女の人と仲良くなった。
あれは逆ナンだったのかな…そういや名前を聞いていないな。
夜は皆のご飯を作った。
疲れた。でも最後みんなと食べるご飯は美味しかったな。

最後に。

あの計画は順調に進んでいるみたいだ。
フォルムはすでに完成しており、あとは細かい調整だけらしい。
もうすぐだ。
歯痒い思いに押し潰されそうになるのはもうすぐ終わりだ。

カリカリ…

「…さて、寝よっと」
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