鴛鴦之契

□弐
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春麗が紅明の元に嫁ぐことが決まり、劉家は春麗の妹と分家の息子が継ぐことになった。
慌ただしく春麗と春麗の妹の婚儀の準備が進み、劉家の使用人が連日あちこちに走り回っている。

「本当に、まだ夢でもみてるような気分だわ」

城から送られてきた春麗が婚儀の日に着る紅色の着物を撫で、母が嬉しそうに微笑んだ。

「まさか、娘が皇子に嫁ぐなんて」

「私も、未だに信じられません」

母親の横顔を見て、春麗は口を閉じた。
微笑んでいるのに、その瞳はどこか悲しげである。
亡くした息子のことを思い出しているのだろう。

「おかしいわね。嬉しいのに……少し、怖いのよ……。これ以上、子供を手放したくなかったのだけれど……春麗も、行ってしまうのね……」

「母上……」

あの日、いつものように家を出て、二度と戻ってくることのなかった兄の姿を思い出す。
兄は、主人とともに命を落とした。最後まで主人に仕え、主人を守ろうとした。
春麗は震えそうになった手を握り締め、母に笑顔を向けた。

「私は、国に嫁ぐつもりでいます。兄上がそうだったように、煌帝国に全てを捧げるつもりです」

強い決意のこめられた春麗の言葉を聞き、母は表情を和らげた。

「貴女は私の誇りだわ」

慈しむように頬を撫でられ、春麗は幼い頃に戻ったような感覚に浸った。
子供でいられる時間もあと少し。次は自分が母親にならなければいけない。
すると、母はいきなり厳しい表情をした。

「いいですか、春麗。妻というものは、強くなくてはいけません。夫婦生活は妻次第でどうにでもなります。しかも相手は皇子。正室とはいえ、この先紅明様が側室を迎え寵愛をそちらに注がれてはなんの意味もありません。常に凛として美しく、夫を飽きさせないようになさい。子を産んでも、夫の前では母親である前に一人の女でいなさい。いいですね」

「……はい」

春麗の父は、後継者候補となる男児を一人しか産めず、しかもその息子を亡くしてしまった今でも母を大切にしている。妾も作らず、他所に他の女がいる気配さえない。
これも全て、母が父の寵愛を一身に受けてきたからだ。
春麗も母のようにならなくてはいけない。
しっかりと頷いた春麗を、母はもう一度撫でた。

それから一月後、異例の早さで紅明と春麗の婚儀が行われることとなった。
春麗が22歳になってすぐのことである。

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