横山本

□横山本 短編
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「山本さん」

「.......」

「山本の彩さん」

「.......」

「さや姉こと山本彩さん」

「なんです?」






しつこく呼び続けた結果。

やっと、彩ちゃんが反応してくれた。

それでも、背中はこっちに向けたまま。

その日、彩ちゃんは落ち込んでいた。

生放送で、思うようにキャラを出せない自分に怒りにも似た感情を抱いているんだと思う。

彩ちゃんは、真面目だから。

そんな彩ちゃんを放っておけず、私はこうして彩ちゃんを家に連れて帰ってきたわけで。

家に着いても、彩ちゃんはニコリともせず黙ってカーペットに体育座りで座り込んでしまった。

「彩ちゃん、元気だして。な?」

「無理です」

「彩ちゃーん」

私が寝転がっているソファに寄りかかっている彩ちゃんの髪の毛をわしゃわしゃと撫で回す。

黒い、最近伸びてきた彩ちゃんの髪の毛が揺れる。

彩ちゃんは、しばらく私のされるがままになっていたけど、ようやっとしてボソリと声を出した。

「なぁ、ゆいはん。私はどうしてこうなんやろ」

「なにが?」

「全然、しゃべれへん。面白いことなんて一つも言えへん。みんなが気を使ってくれてるのにその期待に応えられへん。私は最悪や」

私はそうやって肩を落とす彩ちゃんの背中を黙って見つめた。

彩ちゃんは、真面目だ。

私も真面目って言われるけど。

彩ちゃんは、さらに輪をかけて真面目やと思う。

可愛くて、ダンスが上手くて、歌も上手くて。

人望もあって、スタイルも良くて。

誰しもが羨む人なのに、本人はまるでそれに気づいていない。

常に高みを目指している人だからこそ、自分には容赦しない。

私は、たまにそんな彩ちゃんがとても心配になるときがある。

壊れてしまわないだろうか。

完璧なように思われて、実は誰よりも壊れやすい、この女の子は。

「彩ちゃん」

私は、背中から彩ちゃんを包み込むように抱きしめた。

ギュッと抱き寄せる。

「彩ちゃんのその辛さ、半分こしよか?」

「........」

「1人で悩まんといて。彩ちゃんは最悪なんかじゃない。最高なんやで。そうやって、自分の弱さと向き合うってなかなか出来ないのに、彩ちゃんはちゃーんと向き合ってる。それって強い人にしか出来ないんやで」

1人で悩まないで。

彩ちゃんのリュックサック、一緒に持ちたい。

弱いところ吐き出して。

私にだけは。

彩ちゃんの全部見せて。

「私、横山本の相方やで?」

そう言って、抱きついたままの大勢で彩ちゃんの顔を覗き込むと、彩ちゃんは大きな黒いネコ目にウルウルと涙を浮かべていた。

口をキュッと結んで、必死に泣かないように我慢してる。

ほんっとに。

意地っ張りや。

「私は、完璧じゃない彩ちゃんが大好きやで」

彩ちゃんのほっぺにチュッとキスをする。

そして、再びギュッと後ろから抱きしめた。

前に手を回している私の腕に、ポタリポタリと水が零れ落ちる。

それは、彩ちゃんの涙。

綺麗な綺麗な

涙の雫。







「ゆいはん」

「なんです?」

「そばにいてな」

「当たり前やん」





END.

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