セーラーゾンビ

□舞子×睦美(短編)
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「もう、ダメかも....」

私は、屋上から校庭を見下ろしながら呟いた。

眼下には、今夜も月の光を浴びながらウロウロと徘徊するゾンビ達の姿。

幻想的なはずの月の光に照らされるその光景は、まさに「地獄絵図」だ。

はぁ、と力無く息をついて屋上のフェンスに背を預け、暗い夜の空を見上げる。

この世には、神様はいないのか。

なぜこんな世界になったんだろう。

「もう、ダメかも....」

思わず、同じ言葉がまた喉の奥から零れ落ちる。




「まーた、言ってんの?」



ハッといつの間にか瞑っていた目を開ける。

完全な暗闇になっていた視界に朧げな月が映し出され、目線を声がした方にゆっくりと移す。

「睦美」

「探した。汗、かきたくないんだけど」

グリーンのパーカーを羽織った睦美が、悪態をつきながらも私を見て目を細めて笑う。

「ゴメンね」

睦美は謝る私の言葉に小さく頷きながら、私の横に歩いてくる。

「やな光景。めんど」

フェンスから校庭を見下ろした睦美は、悪態を吐いた。

私は思わず笑ってしまう。

「なに」

「ふふ、睦美ってさ。すぐ『面倒』って言うよね。あと『汗かきたくないんだけど』」

クスクス笑うと、睦美はムッとして言い返してきた。

「舞子だってすーぐ『もうダメかも....』って言ってんじゃん」

「うっ」

フフンと意地悪そうに笑うと、睦美は校庭から目を移してさっきの私と同じように暗い空を見上げた。

私も、再び闇夜を見上げる。

「睦美」

「なに」

「睦美は、怖い?」

睦美が視線を私に向けるのがわかった。

でも、私は闇夜を見続けながら言葉を紡ぐ。

「私は、怖いよ。なんでこんな世界になっちゃったんだろう。非日常が、今は日常になってる」

朝起きて、学校に行って、勉強して、友達と遊んで。家に帰ったらお母さんが作ってくれる夕飯があって。

そんな少し退屈だった日常が今は愛おしい。

2度と戻らない、あの退屈な日々。

睦美は、少し黙って私を見た後、私の手を握った。

ハッとした。

睦美の手の暖かさが、現実に引き戻してくれた感覚だった。

視線を、睦美に戻す。

そこには、いつもの悪態を吐きながらも優しく私を見つめてくれる睦美の眼差しがあった。

「怖いよ、私だって。なんでこんな面倒な世界になったんだろって思う。でもこんな世界になったから、私は舞子と出逢えた」

ゾンビに襲われそうになった時、私を救ってくれた睦美。

睦美がいてくれたから、私は今こうしてここに立っている。

「舞子は私が守ってあげる」

睦美はそう言うと、私を抱き寄せた。

フワリと睦美の香りが鼻をくすぐる。

睦美の暖かさに、私はしばらく甘えた。

目を閉じて、身体中で睦美を感じる。

居心地の悪かった暗闇が、今はとても心地よかった。

「うん」

「汗かきたくないけどさ」

「プッ。まーた言ってる」

「うっさい」




照れ隠しなのか、また悪態を吐く睦美が愛おしかった。

睦美のパーカーをギュッと握って、睦美の首筋に顔をうずめる。

どうしようもなくなったこの世界に、一筋の光が見えた気がした。





END.

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