長文

□ワガママ
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【ワガママ】





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淳「えー!またそこぉー?」


研「え?嫌だった?他の所にしようか…」








僕の一言で、研二さんは必至に今夜のデートのレストランを選びなおしている。



研二さんと付き合ってから、僕はワガママになった。
何をしても、何を言っても研二さんは許してくれる。
笑顔で「大丈夫だよ」と言う。



ワガママになっている自分にも、何でも許す優しすぎる研二さんにも最近イライラしていた。
それに比例するように僕のワガママもどんどんエスカレートしていった。





本当はこんな事したくないのに…。






研二さんが選びなおしたレストランはとても美味しくて、満足だった。
でも、「美味しかった」と言える程、素直にはなれなかった。







淳「まぁまぁ…かな」


研「次はもっと美味しい店さがしておくね!」






またしても優しくて暖かい研二さんにイライラした。



僕たちが付き合ったのは、鬼龍院さんと喜矢武さんが恋人同士になった事がキッカケだった。
お互いに2人の邪魔をしないように…と、一緒に行動するようになった。
自然とお互いに好きになって、僕から告白した。









ある日。
喫煙所から出てきた喜矢武さんと廊下でバッタリ会った。







豊「あ、淳くん。ちょっと話あるわ」


淳「なになに?」


豊「お前さ、研二にワガママ言うのいい加減やめたら?」


淳「は?何のこと?」


豊「お前、研二に体はる仕事は怖いから控えて、とか言っただろ?研二、最近そーゆー仕事全部断ってるらしいぞ」


淳「え…」


豊「研二から体力仕事奪ってどうすんだよ…」


淳「ぼ、僕は…研二さんがケガしたら怖いって言っただけで…」


豊「そーゆーの恋人としてどうなの?淳くんこのままだとそのうち研二に捨てられるぞ?」







そう言って、喜矢武さんは楽屋に戻ってしまった。
何だか急に不安になってすぐ近くの楽屋にいる研二さんにメールを送った。






淳メール
「研二さん!研二さんは僕の事好きだよね?」

研二メール
「うん。好きだよ」






すぐに返ってきた返信にホッとした。
楽屋に戻ると、いつものように「おかえりぃ」と研二さんが笑顔で迎えてくれた。




安心した。
でも、その安心が僕をまたワガママにする。





その日の収録で、テレビ局の女子アナウンサーと笑顔で談笑する研二さんにイライラしてしまった。




収録後、研二さんと食事に行く約束をしていたが、気分が乗らなかった。





研「淳くん!この前より美味しそうなお店みつけたから予約しといた!」






満面の笑顔で、自信満々な顔で。





淳「あーごめん。今日は気分が乗らないや。」


研「体調でも悪いの?」


淳「まぁそんな感じ!!じゃぁね!!おつかれ!!」







ろくに研二さんの顔も見ないで、急いで楽屋を後にした。
「送ってくから、待って!」って研二さんからメールが来ていたけど、無視した。



どこまで優しいのよ、あなたは。
どれだけ僕をワガママにすれば気が済むの?










静かな部屋にレンジの音がなった。
コンビニで買ったお弁当をあたためた。
自分の部屋で食事をするのはいつぶりだろう…?
思い返せば、ほとんど毎日のように研二さんと食べてたなぁ…
毎日、お店選んだり大変だったろうなぁ…
ちょっと泣きながら食べたお弁当は全然美味しくなかった。








翌日は事務所での仕事だった。
少し早めに事務所に行くと、すでに鬼龍院さんが来ていた。





翔「おはよー」


淳「おはようございます…」





鬼龍院さんは、ココアを飲みながら黙々とケイタイをいじっていた。






淳「ねぇ…鬼龍院さん…」


翔「ん?」


淳「最近、喜矢武さんとは上手くいってる?」


翔「え、何いきなり…」


淳「いや…ちょっと気になって」


翔「うーん…普通じゃない?研二さんとうまくいってないの?」


淳「うまくいってないって言うか…研二さんに優しくされると嬉しいんだけど、同時にイライラしたりもするんだ…自分がどんどんワガママになっている気がして…本当に研二さんの事好きなのかわかんなくなっちゃった」






鬼龍院さんは、やれやれといった顔でため息をついた。





翔「淳くんさ、研二さんが出かけてる間に外で救急車とか通るとすっごいソワソワして外見てるよね(笑)で、無事に帰って来ると泣きそうな顔してるよね(笑)あ!あとさ、収録中に研二さんの事じーっと見つめるのやめてくれる?(笑)あとねぇ…」


淳「き、鬼龍院さん!!!!」


翔「まぁ、ここまで言っても自分の気持ちわかんないなら、重症かもね」






その時、遅れて喜矢武さんと研二さんがやってきた。
喜矢武さんは当たり前のように鬼龍院さんの隣に座り、ココアを盗み飲みしている。
研二さんも当たり前のように僕の隣に座ったが、緊張でほとんど目を合わせる事ができなかった。







仕事を終えて帰り支度をしていると、研二さんが話しかけてきた。






研「今日どうする?ゴハン行く?また今度にする?」







本当は、一緒に居たい。
研二さんと楽しく美味しい食事がしたい。
研二さんの笑顔が見たい。




でも、今は無理…。



淳「おつかれさまでした!!!」



僕は、研二さんに返事もせずに事務所を後にした。








2日連続のコンビニ弁当。
美味しいのか不味いのかもわからなかった。
半分も食べられなかった。





食事を終えて、テレビをつけようとした時、チャイムがなった。


僕の部屋を知っているのは、数人しかいない。
すぐに研二さんだとわかった。






淳「どちらさまですか?」


研「俺だけど…」






やっぱり。
玄関の扉1枚挟んだ向こうに研二さんがいるというだけで、嬉しい。







淳「どうしたの?」

研「体調悪いんじゃないかと思って、薬と果物買ってきた。ここに置いていくから食べてね。お大事にね」







玄関を開けようとしていたのに、開けれなくなってしまった。
ガサッとビニール袋が置かれる音がして、足音が少しずつ遠ざかっていった。






淳「研二さん!!!」







研二さんはエレベーターに乗る直前だった。
僕の声に驚いて振り向いた。







研「淳くん…早く部屋に入らんと…」


淳「何でそんなに優しいの?僕がこんなにワガママなのに…」


研「淳くんはワガママなんかじゃないよ?素直になるのが下手なだけ…それに、淳くんの事大好きだからつい甘やかしちゃうんだ…ってゆーか、体調良くなったらゆっくり話そう?今はゆっくり休んで?な?」







居ても立ってもいられなくなって、僕は研二さんに駆け寄り抱き着いた。






淳「体調悪いなんて嘘だよ!このまま研二さんと居たらどんどんワガママになっちゃう気がして…研二さんの事避けてた…ごめんなさい」







僕を受け止めていた腕にギュッと力が入って研二さんは僕を強く抱きしめ返した。
ふぅと息を吐いて「具合悪いんじゃなくて良かった」と言った。







淳「今日はずっと一緒に居たい…」

研「素直になったね」







ちょっと寒いエレベーターホールで僕と研二さんはキスをした。








淳「研二さん…大好きだよ…」

研「もう…淳くん泣かんでよ…淳くんの涙見ると理性が吹っ飛ぶ…」







研二さんは僕の涙を拭いて微笑んだ。
その笑顔に僕はますます涙が溢れて抱き付いた。






その日は、久しぶりの研二さんのぬくもりに満たされた。
朝まで求め続けてやっぱり僕はワガママだった。









それから、研二さんは体力仕事も受けるようになり、夜ご飯のレストランも2人で選ぶようになった。
ワガママも言わないし、何よりも研二さんの事が大好きだから研二さんの事を一番に考えたいと思うようになった。









翔「淳くんさ…素直になったって言うか…なんか…」


豊「…母親?」


翔「そんな感じ(笑)」








研「淳くん…もうちょっとワガママになってもいいんだよ?」



研二さんはまた僕をワガママにしようとする。

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