忍たま

sorry,mam
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「〜〜〜〜ッこれはどういうことですか七松先輩イイィィ!!!!」










sorry,mam






「へ?」


 せんべいをばり、と割り、私の前で仁王立ちになっている滝夜叉丸を見上げた。
 一緒にお茶をすすっていた金吾、四郎兵衛はあわあわと私に何が言おうとしたが、それは滝夜叉丸の声でかき消された。



「へ、じゃありません!!!まだ次の予算会議まで期間があるというのに何故もう予算がないのですかッ!?」

「あー…」

(怒った顔も可愛い)



「どういうことなのかさっさと説明ください!!」


 滝夜叉丸のこめかみがひきつっている。わなわなと拳がわなないている。

(あー、怒った、かな?)


「七松先輩!!」
「んーと、…ちょっと、ね。なっ、三之助!」

「へええっ!?ちょ、せんぱ…」



 三之助に話を振ってみたが、三之助は慌てるだけで、何も言い訳らしい言い訳は出てこなかった。


「どういうことですか」
「…えーと、これ、ハイ。」

「…なんです?」



 体育委員会委員会室に常設されている机の上に置きっぱなしになっている領収書を滝夜叉丸に渡した。



「…」
「……」


(怒るだろうなあ)


 全部私が壊した備品の修理代や補充費だ。それに足して委員会のみんなで食べたせんべいやお茶の雑費。
 まあ、後半は微々たるものだけれど。



「…な」

(きた)


「ななななんですかこれはアアァァ!!!!!!」

「ひゃー」


「修理費五割、補充費四割。その他雑費一割…?その大部分が七松先輩!あなたの所業のせいじゃあないですか!!!」

「うん」


「うん…?うんじゃありませんよ分かってるならそれを減らそうだとかなくそうだとかいいえそんなことはいいませんせめて反省するだとかないんですかないんですねそうですねよくわかります…!」

「滝大丈夫?」


 怒りにまかせて一気に思いの内をぶちまけたため、ぜえぜえと肩で息をしていた。
 心配だったから滝夜叉丸に声をかけたけど、逆効果だったみたいでギ、と睨まれた。



「…いいですか先輩。このままじゃ委員会は赤字です。そうしたらみんなで遠足にも行きませんし、焼きイモもできません。いいんですか?」

「……それはやだ」


 去年、金吾はいなかったから参加できなかった行事の数々だ。
 それらには滝夜叉丸がなにかしらお弁当を作ってくれて、それをみんなで食べるのが楽しいのだ。


「ならば、今回の予算会議、取りに行きましょう」
「おう!いけいけどんどんだな!」

「ええそうです。先輩…今回の予算会議で前回以上の成果が上げられなければ…」
「なければ?」

「忍の三禁に乗っ取らせていただきます」
「えええええええええええ」


 滝夜叉丸がそういう瞳には真剣さがにじみ出ていて、これは本気で予算を取らないと禁欲生活を強いられそうだ。

それは断じて絶対に嫌だ。



「おおおし、頑張るぞ!」

「僕たちもお手伝いします!」
「いちお、俺も…」


 私の幸せな生活のためにも、意気込んで立ち上がると、下から小さな声が3つ聞こえてきた。


「おお、お前たちもやるか!」
「はい!あ、滝夜叉丸先輩はゆっくりしててください!」

「…あ、ああ」


 ふん、と意気込んだ小さな後輩に、わくわくと心を躍らせていると、滝夜叉丸も意気込む後輩2人に頬を緩めていた。
 小さく無茶はするなよ、と声をかけてもいた。



「よし!そうと決まったらすぐに行こう!」


 いけいけどんどん!と声をかけて委員会室を飛び出すと、後輩たち3人もおー!と元気に飛び出してきた。



 よし、やる気が出てきたぞ。
このまま会計委員会室に突入だ!!




「潮江文次郎ー!」





 ……きり丸の手を借りてもう1度追いつめたが、逃げられた。が、ここで終わる体育委員会じゃない!


「文次郎!止まらないとお前の所の四年がどうなっても知らんぞ!!」

「〜〜〜〜っ、ひきょうな」



 ずざざざ、と急ブレーキをかけて、文次郎が止まった。私が最初に文次郎と対峙し、後ろに3人が控える。


「ふふふ、止まったな。予算を上げろ!」
「ことわーる!体育委員会は備品を壊しすぎる!」


 文次郎の言い分はもっともだった。でもこっちだっていろいろと事情があるんだ!


「文次郎だって半分は片棒担いでんだ!それを認めて会計委員会との折半を要求する!」



 私の言葉に、文次郎がぱちりと瞬いた。少し驚いたようにしたが、その表情も一瞬ですぐに眉間にしわを寄せた。



「それも断る!備品破損に関与したことは認めよう。が!会計は関係ない。俺がお前と折半するのは認めよう」

(…えーと、それだと…)


 頭にはてなを浮かべていると、後ろから三之助に耳打ちされた。


「先輩、それでは体育の予算に変わりはありません」

 あ、そうか。私の持ち金が少なくなるだけだ。


「だ、だめだ!体育の経費と文次郎、お前個人だ」
「………うーむ」



 文次郎は考えるようにして腕を組んだ。…よし、あとひと押しか?
 にやりと笑みを浮かべると、急に声がふってきた。



「その折半、待った!」
「み、三木ヱ門…!」



 ざ、と文次郎の後の塀の上から、会計委員の田村三木ヱ門が降りてきた。


「話は聞かせていただきました」


 さらりと揺れる髪をなびかせ、しゃがんだ状態から立ち上がった。



「体育の予算不足の原因、補修費ですが、他に依頼するから出費がかさむのです」
「む。」


 確かに、修理は用具委員に頼むことが主だ。酷い時には町に行く。だが、私は壊したそれらを直せるほど器用ではない。


「修理も体育委員のできる範囲のものは体育委員でやれば出費は減ると思いますよ」
「だが、私には直せないよ」

「滝夜叉丸がいるではないですか」
「……滝?」


 田村が、ひどく満足そうに、ふんぞり返りながら笑みを浮かべて言う。


「はい。滝夜叉丸は自他共に認めて器用です。だから、滝夜叉丸に修理させればよいのでは?」
「うーん…」


(滝夜叉丸。言われてみれば確かにあいつは私のパペットなんかも作れるしなあ)

(でも)


「滝夜叉丸に迷惑がかかるじゃないか」
「体育委員として当然の勤め、です」


 田村は、滝夜叉丸が良く言う台詞を真似ながら言った。
 迷う。滝夜叉丸に迷惑はかけたくないと思うが、滝夜叉丸は器用だ。修理なんかは簡単だろう。出費が抑えられる…。



「うう〜ん…」


 私が腕組みをして悩んでいると、田村はにっこりと笑って言う。


「時間はまだあります。たっぷりと考えて答えを出されればよいのです」
「……それもそうだな。よし、お前達、行くぞ」

「はっ、はい!」


 未だに考えている私の後ろを、3人がついてくる。
 ひそひそと話す声を拾った。


「…田村先輩に誤魔化された気がするなあ」
「結局体育の後の今期分の予算はどうなるんですか?」

「滝夜叉丸先輩、直せるんでしょうか…」


…………。



「あーーーーーーーッ!!!!!!やられたあ!田村の奴ーーーッ!!!!」


 くそ!六年の私が四年に出し抜かれるなんて!悔しい!
 引き返して田村に文句を言ってやろうと、踵を返したつもりだった。





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