忍たま
□若菜
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男を可愛いと思ったのは、初めてだった。
若菜
男で、美しいと思ったことはあった。実際、隣の組にいる仙ちゃんはとてもキレイで、1年の頃は女だと思っていたほどだ。
私が学園に入学して、3年目の春だった。今度新しく入った1年生の中に、とても優秀な子がいるらしいと噂がたった。それ自体はいつものことだったが、その子はとても美しいとも言われていた。
「でもさ、仙ちゃんよりはきっと、ね」
「そうでもないさ。私ほどの人間はその辺にもいる」
「えー、そうかなあ」
「仙蔵はそうやっていつも謙虚にしていれば学園、いや世の中一だろうよ」
「どういう意味だ文次郎」
「そのままの意味だ」
い組に遊びに来ていた時だった。私達3年生は実習もなく委員会でも大した役回りではない。そのために今日の午後からある1年生の入学式の準備にあたっていた。片付けも私たちの役目で、準備が終わった今、こうして友人と時間を潰しているのだ。
仙ちゃんも文次も、1年生が気になるらしく、しきりに窓の外を見下ろして眺めていた。
「お、お前のライバルがいるぞ」
「ああ゛?」
仙ちゃんが楽しそうに笑いながら指をさす先には、は組の食満がいた。文次と食満は仲が悪く、いつもケンカばかりしている。その食満の近くには、伊作もいた。
「あ、伊作」
「手伝っていると見えるな。あのお人よしめ」
「食満だけ委員会だもんなー」
「人が少ないからな」
「そういえば長次は?」
「長屋」
「ふん?」
「本読んでる」
だから小平太はここにいるのか、と呆れた目を4つ向けられた。少し拗ねたくなった。
(別にそういう訳じゃねえやい)
ぷう、と頬を膨らませて抗議すると、仙ちゃんに指でつつかれた。
ぶ、と鳴った。
「…あ、あいつじゃねえのか」
「へ!?」
「来たか」
文次の声に3人とも窓により、下を見下ろす。と、そこには3人の1年生がいた。
「……かわいい」
「……、」
「まあ、大きくなれば美しくなるだろうな」
1年生ということもあって、その子はぷにぷにと子供らしい体つきで、それが相まって可愛らしかった。
(男なのに、可愛い)
私はずっとその子に見とれていると、2人に小突かれた。
「忍の色は禁止だぞ」
「一目惚れとはな」
「ち、違うっ」
焦って2人に言い返し、もう1度その子を見た。と、その子は上にいる私たちに気付いたのか、私たちを見上げ、ぺこりと頭を下げた。頭を上げ、もう友人なのだろうか…一緒に歩いていた2人に追い付くように軽く走っていった。
(やっぱり、可愛い)
……この時私は、気付かなかった。
後に、あの時見とれてしまったり、焦って否定するこの気持ちが、恋だということに。
END