one piece

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「おいロー!早く支度しろ」
「もうしてる」


騒がしい朝の光景。
ばたばたと慌ただしく左へ右へと動き回っている長身の男。
短い金髪はカチューシャによって後頭部の方へ撫でつけられ、目元には橙のサングラスがかけられている。

左耳には金のピアス。
手元にはジャラジャラとしたブレスレットやミサンガが巻かれていて、その風体は軽薄な男そのものだった。

しかし、その男がせかせかと手を動かしているのは、小さな弁当箱。

シンプルな紺色のそれに、色とりどりのおかずが配置され、白いごはんにはちょこんと梅干しが鎮座している。


「ロー、弁当包め」


その声に、ローと呼ばれた細身の男は、無口に男のそばへ行き、横に畳んであった白くま柄のバンダナで出来たばかりの弁当を包み込む。

その手つきは慣れたもので、細身の長身、黒い短髪に顎鬚を少し蓄え、目元が暗い隈に覆われている不健康そうな風貌から、とてもじゃないが似つかわしくなかった。

「あ、おれのも包んでくれー」


その言葉に、嫌そうな顔を一瞬向けたが、しぶしぶと言ったように隣にあった桃色のフラミンゴ柄のバンダナに手を伸ばす。
自分の弁当よりも一回りも二回りも大きなそれを、刺青だらけの細い指が、自分の弁当よりは幾分か適当に包み込んだ。


包み終えた弁当を片手にひょいと持ち上げると、二階の自分の部屋へ支度をしに行ったであろう男へ声をかける。

「ドフィ、先に行くぞ」
「ちょい待ちー!もう行けるから!」


どたどたと走り寄ってきた男は、白いYシャツにスクールバッグを肩に背負い、いかにも学生といった格好だ。

無造作に自分の弁当を引っ掴むと、玄関に突っ立っているローの背中を追う。









「つかお前、兄ちゃんを呼び捨てにすんのやめろよ」
「俺に命令すんな」


通いなれた道をすたすたと歩く長身の二人組は、かなり目を引くものがある。

ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
トラファルガー・ロー。

二人は、正真正銘の兄弟だった。
しかし、親の都合で苗字が分かれ、育つところが別れ。

兄であるドフラミンゴは、父親とともに昔からの自分たちの家で暮らしており、高校に入学したあたりから父親はまた新たなパートナーを見つけて家を去った。
父とともにこの家を去ることも誘われたのだが、この土地にとどまることを決めたのはドフラミンゴ自身だ。

そして、この春。

ドフラミンゴは高校三年へと進級し、同じ高校に入学してきたのが弟のローだった。

今の家に一人で住んでいることをローに告げると、それならばと転がり込んできたのである。

母親は、2年前に他界したらしい。



そして季節は廻り、8月。

小さい頃の記憶しかなかった二人は、うまくやっていけるかどうかと不安がったりもしたが、今の関係は良好らしい。

同じ高校に連れ立って登校するところを見ると、そのあたりの兄弟よりよっぽど仲がいいといってもいいだろう。



「今日夕飯要らねーから」
「んん?また勉強か」

「ああ。ってかお前受験生なんだからお前こそ勉強しろよ」
「あー、おれはな…」

「まさかまだ迷ってんのか。いいから進学しろって」
「んー」

「首席のくせに…」
「あー」


ドフラミンゴは、進路に迷っていた。
自分の学力があれば、希望する大学に入学するのはそう難しくはないだろう。
しかし、今の自分たちの経済状況を考えると、就職の道も考える。
それも、医学大学へ進学を希望しているローの学費稼ぎが一番の目的なのだが。


「今日進路相談の日だろ」
「おお。よく知ってんな」

「担任進路指導だからな」
「そうか」

「進学しろよ」
「おお…」

「…I大学経済学部」
「う」

「お前の部屋にあった」
「勝手に見てんじゃねえよ」

「いいんじゃねえの」
「でもよ」

「いいから。お前はお前の進路をちゃんと考えろ。いいな」
「…へーへー。」


これでは、どっちが兄なのか。
自分のために就職を考えていることは、ローにも感づかれているのだろう。
進路の話になると、何度も進学を進めてくる弟に、ドフラミンゴは嬉しいやら困ったやら。
微妙に弧を描いた口元を隠すように顔を俯かせ、小さく溜息をついた。




三年と一年の教室は階が違う。
昇降口でローと別れると、ドフラミンゴは三年の教室に向かうために階段を駆け上っていった。


自分の教室に入ると、よく見知った顔がてんてんと並んでいる。
三年にもなると、自分が選択した授業にしか出席しない生徒も多く、全員がそろって教室にいるのはもう珍しいことだ。


「ドフラミンゴ。おはよう」
「おーはよ」


自分の席に腰を掛けると、早速一年の頃から連れ立っているミホークが声をかけてきた。
それに答えてから、ふと疑問が浮かんだ。


「お前今日授業あったか」
「進路相談のためだけに来たんだ」

「あー…、ご苦労なこって」


はは、と笑いながら言うと、ミホークの視線はドフラミンゴの持つ弁当に注がれていた。


「ん。それなんだ」
「弁当。ローの分と合わせてな」

「食わせろ」
「えー俺今日放課後まであんだけど」


ミホークから弁当を遠ざけると、制服のポケットをごそごそと漁り、入りっぱなしになっていた飴をひとつ渡した。


「む、それくれ」
「おら」


さっさと袋紙をあけて口に放り込むミホークに苦笑を漏らし、頬杖をつく。


「というか、これいいのか」
「あ?」

「もらった飴だろ、後輩に」
「あー…いいよ」

「相変わらずだな、おぬし」
「別にいーだろ」


ドフラミンゴは、モテる部類の男だった。
すらりとした長身に程よく筋肉がつき、顔は切れ長の蒼い瞳にすうと通った鼻筋。
形のいい薄付きの唇。

容姿がいいことはもちろん、明るく社交的な性格にも好感が持てるし、ローが入学してきてからというもの、家庭的な一面も顔をのぞかせている。

強いていうなら、何を考えているのか分からない人を食ったような笑顔をいつも見せていることと、冗談なのか本気なのか分からない口の達者さで、倦厭されている節がある。


授業が始まる鐘がなり、ミホークは自習をするための準備を始めたようだった。
それを見送り、ドフラミンゴも机にノートと参考書を開く。

そっとスラックスに忍ばせていたオーディオを操作すると、耳にイヤホンを差し入れ、微妙な音量で再生し始める。



(進学…、か)



ふう、と溜息をつくと、ドフラミンゴは勉強に集中しようとサングラスを外した。







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