one piece

□face to face
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青い空。
衰えを知らない青い木々たち。

白い砂浜
小高い丘。

そこに、静かに佇む屋敷がひとつ。



二階にある大きな窓は開け放たれており、
そこに新しい風が吹き込んでいる。




「うーん…」




窓から入る風のせいで白いカーテンがはためくのを視界の端に入れながら、ベッドの上で唸る人影がひとつ。


大きなベッドの上に胡坐をかいて考え込んでいる人物は、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

長い足を器用に組み、ふかふかのベッドに腰を落ち着かせている。
上背を丸め、考え込むようにして腕を組んでいる。

その表情は真剣そのもので、いつものスマイルは浮かべられてはおらず、いつものサングラスで目元は隠れているものの、口元は真一文字に引かれている。



しばらくそうして考え込んでいると、
一陣の風が部屋に舞い込んだ。

ゆらゆらと揺れていたカーテンは風に舞い上げられ、ばさばさと大きな音を立てた。



「お」

その風に、うつむかせていた顔をあげ、口元にはうっすらと笑みが浮かべられる。


ザザザザ…、と
砂が流れ込んでくる。

その砂を見つめながら、ドフラミンゴは笑みを深くする。

流れ込んできた砂は、サラサラと音を立てながら、一人の男に形成された。

足元から現れるそれは、
均整のとれたすらりとした足から、よく締まった腰元。

フォーマルなそれに包まれ、白い肌を見え隠れさせながら、艶のある黒髪がふわりと風を纏わせる。

最後に、ふわりとそれらを覆い隠すように
脛まである黒い毛皮のコートが肩に掛けられた。



男の名は、サー・クロコダイル。


先ほどまで、いや、今も、ドフラミンゴの頭の中を占拠し続けるドフラミンゴの想い人である。

すきだ、愛してる、大切なんだと繰り返すドフラミンゴに、根負けしたように自分との関係を持ってくれているクロコダイル。

それを邪険にしつつもドフラミンゴ自身を拒否することはせず、こうしてドフラミンゴの所有する島まで訪れてくれているあたり、ドフラミンゴは好感触を持っている。


「フフフ、遅かったじゃねえか」
「分かりにくいんだよ、ここ」


フン、と鼻を鳴らしつつも、ここまで飛んできたことに疲れを感じているのか、厚いコートをばさりと脱ぎ捨て、近場にあったソファに掛けた。


「あー悪かったな」

くつくつと笑いながら、ドフラミンゴは胡坐を崩してベッドの端に腰をかけなおす。


「だがいいところだ」
「だろ?おれのとっておきだ」


静かな環境がクロコダイルも気にいったのか、窓から島内の景色を楽しんでいる。

いつまでも自分のそばに寄ってこないクロコダイルに、ドフラミンゴは腰を持ち上げ、クロコダイルの背後に近付く。


「珍しいな、てめえがこんな何もねえところに屋敷構えるなんざ」

それを察したクロコダイルは、視線は窓の外に向けたまま、顎先だけをドフラミンゴの方に向けた。

「ワニ野郎が気に入ると思ってよ」


動きを見せないクロコダイルを、後ろから包み込むようにして抱きしめる。
そんなドフラミンゴの行為にも、クロコダイルは抵抗を見せずに甘んじている。

「んー。珍しいな、ワニ野郎が逃げねえなんて」
「そうしてほしいならそうするが?」

「冗談」


ぎゅう、とクロコダイルを抱きしめ、その首筋に自分の鼻筋をすりよせる。
ふわ、と香るのは、いつもクロコダイルがくゆらせている葉巻のにおい。
それと一緒に、クロコダイルが愛用している石鹸のにおいもわずかに香る。


「……おい。クソ鳥」
「んー」

「離せ」
「なんで」

「離さねえなら尻にあたってるそれを引っ込めろ」
「…ばれてら」

「猿が…」


ドフラミンゴは、離しもせず、引っ込めもせずにいると、ぎゅうと抱きしめていたものがさらりと粒子に変わるのを感じた。

「おいおい。砂にまでなることか」


サラサラと砂になるクロコダイルを、ドフラミンゴは残念そうに視線で追う。
視線で追うと、クロコダイルはベッドの上へと移動しているようだった。
ドフラミンゴは、それを確認すると、棚に備えて置いた酒へと手を伸ばし、空いた片手でガチャリと音を立てながらグラスを二つ抱える。



「…、てめえの不躾さは救いようがねえな」

ぎしり、と枕元へ腰かけるようにして、長い脚を伸ばすクロコダイルの近くへ、グラスを一つ投げる。

ぱし、とグラスに傷を与えないように受け取るクロコダイルを見届け、ドフラミンゴもどすり、と腰を下ろした。


「フッフッフ、紳士な男が好みなら他を当たれ」
「あー、それが利口だな」


くつくつと喉で笑いながら、クロコダイルは受け取ったグラスをドフラミンゴの方へ傾ける。


「ま、てめえにそんなもの最初から期待しちゃいねえがな」


とくとくとく…、とグラスに注がれるそれは、琥珀色のカルヴァドス。

「…ん?なんだこれ」
「カルヴァドス。リンゴのブランデーだ」

「リンゴ…」


ドフラミンゴの言葉に、ドフラミンゴが持つビンをよく見ると、まるごとリンゴが浸されているようだった。


「見た目はキレイだが度数は結構だぜ」
「ふーん…」

くん、と香りを楽しむように鼻を寄せるクロコダイルに、ドフラミンゴは嬉しそうに口を開く。


「お気に召したようで嬉しいぜ」


それにちらりと目配せをし、クロコダイルは一口、カルヴァドスを口に含む。

つん、と来るのはアルコールのせい。
口に含んでいると、ふわりとリンゴの甘さと青さが鼻に香る。
それを楽しんだ後、こくりと嚥下し、すう、と息を吸い込む。


「…悪くねえ」


リンゴ。
クロコダイルは、この甘さと青さが、ドフラミンゴのように感じられた。
自分をがむしゃらに求めてきたドフラミンゴを思い出し、クロコダイルは口元にうっすらと笑みを浮かべる。


それを分かっていて、自分にこの酒を用意したのか、それとも分かっていないのか。
多分後者だろうと確信を持っているクロコダイルは、くつくつと笑いながら二口目をあおった。





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