one piece

□special
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「おれはよってねえ!」


たいがいの酔っぱらいはそう言う。

ドフラミンゴの頭の中には、そんな言葉が浮かんだ。




事の起こりは何だったか。
ドフラミンゴは、頬づえをつきながら溜息をついた。



今日は、クロコダイルと約束とも言えるような、言えないような、そんな約束をした夜だった。

ドフラミンゴとクロコダイルは、ドフラミンゴの気が向いた時に連絡をとり、クロコダイルが絶対に来るなと言わない限りは一緒に酒を飲んだり、体を重ねる関係だった。

そしていつだったか、今日の予定を電電虫でクロコダイル尋ねた。
それにクロコダイルは、特に予定はないと答えていたのだった。

その時のドフラミンゴは、珍しいこともあるもんだ、と心を躍らせて、クロコダイルのもとへ行く気満々だった。


しかし、その数日後。
仕事で大きなトラブルが起きた。
トラブルの収拾に追われたドフラミンゴ。
一瞬今日のことも頭によぎったが、特にその時に行くとも言っていなかったから、まあいいだろう、と。

それから、ドフラミンゴは忙殺されるように働いた。

今日の夜、もはや明日になってもおかしくない時間になって、ようやく事態が収拾した。
今からクロコダイルのもとへ飛んでいくにはリスクが高すぎるし、着いたところでクロコダイルはもう寝ているであろう時間だ。
だから、今日のことはもう諦めて、自室で酒を一杯飲んで、寝るつもりだった。

それがどうした。

自室に入ったドフラミンゴは、自分の目を疑った。
自室に入ると、まず黒い塊が見えた。

一瞬警戒したが、ドンキホーテ・ファミリーが構える屋敷だ。
自室に入っているということは、ファミリーの誰かが入れたに違いない。
そう思ったドフラミンゴは、そっとその塊に近付いた。

塊は、ドフラミンゴのいつも座るソファに体を預け、ゆらゆらと揺らめいていた。

「…?だれ、だ…?」

ドフラミンゴの低い声にピクリと反応したその塊は、ゆっくりと振り返り、ひっく、とひとつしゃっくりをあげた。


「ク、クロコダイル!?」


彼の手にはブラウンの液体に丸い氷が入ったグラスが一つ。

「な、なんでここに…ってか、飲んでんのか?」
「のんでる。」

ぐう、と捻りだすような声をあげ、カラン、と小気味のいい音を立てさせてグラスをあおる。


「おれの酒…、まあ、いいけどよお…」

ふと目に入ったのは、ドフラミンゴが大事に取っておいた上物の酒だった。
それはいつか記念すべき日にクロコダイルと飲もうと思っていた酒でもある。
それを一人で開けてしまった悲しさはあるが、どうせクロコダイルに喜んでもらうためのものだった。


「…で?なんでまたドレスローザに」
「ああ?なんでかだと?なんで…。なんでだろーなー」

「ワニ?」
「あー…なんでだったかなー」


ふわふわ、ゆらゆらと意味のない言葉を連ねているクロコダイル。
彼がいつも着ているコートは、几帳面な普段の彼からは考えられない。床に広がっている。
その光景を見て、ドフラミンゴはぽつりと漏らした。

「…酔ってんのか…?」
「よってねえ」

「あ…、そう…?」


クロコダイルが酔うのは珍しいことだった。
いつもはどちらかというと、ドフラミンゴの方が酔いがまわりやすく、クロコダイルに無体を働くことが多かった。
そのせいか、クロコダイルは深酒をしないというか、自分の飲み方を守っているというか。
とにかく、今みたいに酔っているクロコダイルには慣れておらず、ドフラミンゴはどうしたらいいのか分からなかった。


「……まあ、いいか。とりあえずソファ座れば?」
「あー、おう」


ゆるゆると体を起こすクロコダイルに、ドフラミンゴは内心ホッとしていた。

しかし、その足取りは確かなものとは言い難く、ソファに座る、というか転がるようにしてその上に横たわった。

「マジに酔ってるなんて珍しいじゃねえか」
「おれはよってねえ」

「いや酔ってるだろ」
「よってねえ!」

クロコダイルは明らかに呂律が回っていない。
どうしてドレスローザまで来ているのか、その経緯を聞きたいにも、今のクロコダイルには無駄なことだろう。
ドフラミンゴは静かに溜息をつくと、向かいのソファに腰を下ろした。


その音に、仰向けになっていたクロコダイルが横向きになり、睨みつけるようにしてドフラミンゴを見ていた。

「…なんだよ」

その問いに、クロコダイルは片手でグラスをつまみ上げながら、唸るように呟いた。

「なにしてた」


「…何って」
「きょう、なにしてた」

「ああ…、ちょっとしたトラブルがあってな。
その尻拭いだ」
「……ずっとか」

「あー、ずっと、だなあ」


かれこれ、2週間だろうか。
そのトラブルに対応していた時の辟易する周りの使えなさったら。
それを思い出したドフラミンゴは、疲れた様に頬づえをついた。

「…そうか」
「?」

いまいち、クロコダイルが言おうとしていることが分からない。
そもそもクロコダイルからドレスローザに赴いていることが不思議でならない。

近くで何かの取引があったのだろうか。
それとも海軍関係か。

首を捻って疑問符を浮かべているドフラミンゴに、クロコダイルは苛立たしげに舌を打った。





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