Story
□(告)白
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救(いを)求(める)者
あの子はかわいそうな子よ。
何がって？あなたは考えたことない？私達七人はお父様が捨てた七つの欲望でしょう。お父様は己の目的のためにその七つを捨て、その一つひとつに肉体を与え、子とした。傲慢、色欲、大食、強欲、怠惰、憤怒、そして嫉妬。私達はそれぞれ自分の身体と人格を備えていて、自分で見て触って、考え感じることができる。人間と同じように、ね。でしょう？だけど、私は自分が元は色欲という欲望の塊であったということを、今でも強く感じるわ。貴方達もそうじゃないのかしら。ふふふ、私に欲情する、って？無理もないわ。私はそれを体現して生まれたんだから。でも、貴方の情欲より私のそれの方が絶対的に勝っているのも、確かよ。あばずれ女、なんて、人間の女の子なら傷つくような言葉だけど、私はその通りそのものだもの。
――話が逸れてしまったわね。強欲そのもの…えぇ、やっぱり貴方もそう感じるわよね、グリード。なに、難しい話は分からない？ふふ、貴方にはそうだったかしらね。ごめんなさい、グラトニー。
つまり――人間の人格を構築する要因となっているのが何かは分からないけれど、私達の人格を構築しているのはきっとそのひとつの欲望だわ。少なくとも私はそう思う。だからなんだ、って？それとあいつがかわいそうだなんだってのが、どう関係あるんだ、って？…本当に強欲ね、貴方は、あの子に対して私が感じている不安すらも欲しがるのかしら。ふふ、なんて冗談よ。まぁ、最後まで聞いてちょうだい。
大食、グラトニーは単純で、純粋だわ。この子の興味の大部分は食事だもの。生理的欲求が大きくなっただけのこと。え、私のことも好き？それはありがとう、嬉しいわ。もしもこの先私が消えてしまうようなことになったら、貴方にも悲しみや憤りの感情が起きるかもしれないわね。今はよく分からないかも知れないけれど…。ともあれ、グラトニーはその欲求が満たされれば喜びを感じ、満たされなければ苛立ちを感じると思う。そしてそれは、色欲や強欲の私達にしても同じことよね。まぁ、私達が完全に満されるということは、きっとないと思うけれど。
怠惰も、ほとんど同じ。怠惰が満される、ということはないでしょうけど、怠惰でいられる時は喜びを感じ、それが妨げられれば不快になることでしょうね。
傲慢。これは満される欲とは違って、自分自身の絶対的な肯定。他者を受けつけない優越の感情だわ。憤怒は――この子は今ちょうど身体を持っていないけど――、何らかの事象に対して沸き起こる感情。それは人間に、物体に、出来事に、時には自分自身に向けてであるかも知れないけど、それは自己肯定と自己否定どちらか一方に偏るものではないはずよね。
ここまで言えば、貴方にも私の考えてることが予想できたかしら。そう、嫉妬――あの子の人格を構築しているのは、劣等感そのものよ。傲慢なんかとは対照的、完全な自己否定。自分のこと、好きじゃないんだわ。あの子は姿カタチは何者にでもなれる、けれどそれで満足できるわけじゃない。自分が羨んでいるものにはなれない。自分を否定しながら、他者を妬みながら生き続けるのは、すごく辛いわ。――羨ましいなら欲しがればいい、手に入れてしまえばいい、ですって？貴方はそう思うでしょうね、グリード。貴方は強欲。妬むより前に、求めるものに手を伸ばすチカラがあるもの。だけど、あの子は違う。貴方みたいにはできない。求めることができる者は、自分が持たないことを受け入れられる者だわ。あの子にそれができるとおもう？――そうよね、私もそう思うわ。え、自尊心が強くて自意識過剰の弱っちぃ糞ガキ？酷い言い草ね…。でもさすがグリード、よく見てると思うわ。本当に、自分のこと大切にしてないくせに、中途半端な自尊心なんてかなぐり捨ててしまえばいいのよ。そんなものを大事に大事にとってるから、羨んでも妬んでも、求められないの。求められないから恨んで憎んで、あんなにも、他の誰よりも残酷な行いをする。自分を嫉妬へ駆り立てるもの達を、全て破壊しつくすかのように。
もうずっと…ずっと、昔っからそうだわ。そしてこの先、お父様が目的を遂げるその日まで、あの子は苦しみ続けるの？いえ、お父様が目的を遂げたその先もずっと、あの子は変わらず立ち止まったままなのかしら――。
あぁ…もう夕暮れどきね。つい話こんでしまったわ。あら、グラトニーったら退屈すぎて眠ってしまったみたいね。ごめんなさいね。あら、どうしたの、グリード？不満そうね。ふふ、安心してちょうだい。話はまだ終わっていない、けれど、もう終わるわ。
私はね、グリード。
貴方はあの子にとって特別だと思うの。何も求めることのできないあの子が、貴方を求めかけている――いえ、自覚はなくとももう求めているのかも知れないわね。
私はね、救いを求めているの。
当然、私を救うんじゃないわ。
あの子を、エンヴィーを今いるところから引き上げてくれる、貴方を求めているのよ。
安(らぎを)求(める)者
に続く