Story

□IceCream Tower
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そのあつさに
全てが溶けて崩れて堕ちる




暑くて死にそうな暑さとは、こういうのをいうのだろう。
汗だくの顔を汗だくの腕で拭って、意味のない行為に顔を顰める。よくもこんなところに住んでいられると思う。笑って往来を行く人間どもも、あいつも。
かんかんと照りつける太陽に、大胆に露出した白い肌がちりちりと焼ける。首を振り回して、まとわりつく長い髪をはらう。
「デビルズネスト…」
お世辞にも綺麗とは言えない裏路地。絡み合った人々の中で、ふらふらと辺りを見回す。
「何処だよ…」
とどのつまり迷子。
眩しくて瞼を上げるのさえ億劫なところ。細く目を開くと、小さな看板が現れた。



「グリードいる?」
「あなた誰?」
短く整えた金髪と、頬から肩までのタトゥーの女が入口に立ち塞がった。厚い唇から鋭い言葉。
とんだ立ち往生。
汗が止まらない。早く涼しい部屋に入りたい。
「あいつの兄貴」
不機嫌に言葉を投げつける。女は明らかに不審な面持ちで、
「グリードさんに何の用?」
横目にこちらを睨みつける。
その目に、ふっと嫌な妄想。
不快指数は急上昇。嘲笑う様に女に視線をむける。
「あんたこそ何?グリードの女?」
「…は?」
目の前の女は口をぽかんと開ける。
「どうしたマーテル?」
大柄で牛のような男が入口の階段を上ってくる。汗のひとつも見せずに涼しい顔で。
「ロア」
女――マーテルという名らしい――は、牛男――ロアというらしい――を振り返り、何やらどうしたこうしたと密談を始めた。
こちとら暑いんだよ。ぶち切れて、2人ともぶっ殺して中に押し入ろうかと手を振り上げる、と。
「とにかくグリードさんに知らせて来て」
女が牛男に命じるのが耳に入った。ふと、思い止まる。牛男はどすどすと階段を駆け降りていく。
そうだ面倒ごとは後免だ。
ただでさえ暑い。この暑さから逃れるのが最優先。
たとえ目の前の女が憎たらしいグリードの女であったとしても。
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