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□※歌と君と。
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いつものように夜遅くまでの練習。

今日は栄口が部誌の当番だったから、書き終わるのを一緒にまっていた。

多分校舎内に残っている生徒は俺と栄口だけ。


【歌と君と。】


「やっべ、部室に忘れ物してきちゃった!」

部室をでて少し歩いたところで、部室の中に携帯を忘れてきたことに気づく俺。

「えー、じゃあここでまってるね。」

しかたないなぁ水谷は、と呆れながらも待っててくれる優しい栄口。

もーほんとかわいい!

「すぐっ!すぐとってくるから!」

「いいよ、ゆっくりで。」

笑ってそういってくれるけど、

栄口をこんな時間に一人にしておいたら、どんなやつが来るかわからないし。

できるだけ急いで今歩いてきたばかりの道を逆走する。

「どこおいたっけ・・・」

電気の場所を探すも、真っ暗な上にあせっててなかなか見つからない。

記憶を頼りに手探りで机の上をなぞっていると、

こつん、と無機質な物体にぶつかった。

「あったぁ〜・・・」

自分の携帯じゃないはずは無いのに、なんとなく開いて確認する。

画面からもれる淡い光が暗い部室を照らし出した。

携帯もあったしはやくもどらなきゃ、とおもってドアの方へむかうと、

どこからか聞こえてくる歌声。



―――そんなあなたとむかえた今日だから



「・・・栄口の声・・・?」

ドアを開けて外へでると、その声がさっきよりもはっきり聞こえてくる。



―――僕は心から幸せを想うのです



初めてきく曲。

なんとなくせつなくて、栄口の声によく合っていた。



―――そんな貴方に届けたい想いを この歌にのせていま



気づかれないように、後ろからそっと近づいて、

「こころからありがとう・・・ってわぁ!?」

後ろから思いっきり抱きしめた。

「ごめんなぁ、まった?」

「だれかみてるかもしれないだろ!!」

腕の中からぬけだそうとあばれる栄口を逃がさないように、

さっきよりつよくだきしめて、髪の中へ顔をうずめた。

栄口がこれされるの弱いの、しってるもんね。

「っ・・・水谷!」

「なんだよ〜・・・」

「ここ学校だから!」

もうちょっと場所考えろよ!なんて怒る顔もかわいいだなんて思っちゃう俺はもう末期症状。

ぐいぐいと体を押されてしかたなく開放したあと、

ようやくふたりで校門をくぐった。






暗くなった道を手をつなぎながら歩く。

阿部ももっと素直になればいいのに、とか、田島は相変わらず花井にべったりだとか、

そんな他愛ない話をしていたら、ふとさっきの曲をおもいだした。

「ねぇ栄口、さっきの曲ってなに?」

「え?あぁ、昨日姉ちゃんがずっときいててなんとなく覚えちゃった。」

いい曲だよね。と微笑む。

栄口が歌った場所しかわからないけれど、

「おれ、あの歌詞好きだな。」

だって栄口が俺に歌ってくれてるような気がするから、なんて自惚れてみる。

「ほんと?俺もあの歌詞好きなんだよね〜」

そういってまたさっきの曲を口ずさんだ。

小さい声で紡がれるメロディー

なにも特別なことなんていらない。

こうやって隣で一緒に歩けているだけでありえないくらい幸せで。

「・・・栄口も、幸せ?」

「え?」

「俺といれて、幸せだっておもう?」

あるきながら、つないだ手にぎゅっと力を込めた。

「・・・あたりまえだろ。」

たちどまってまっすぐに俺をみる。

栄口のおおきな瞳の中に映っている自分が見えた。

「すっごい幸せ。」

そういって少し照れたように笑う。

部活の時にみんなにみせる笑顔とはちょっとだけちがって、

俺にだけ見せてくれる笑顔。

「うぁーもう栄口大好きっ!!」

「だからもうちょっとTPO考えろって!」

道端で抱きしめた栄口を腕の中にかんじながら、

ずっとこのままの関係が続くようにと、強くねがった。



fin
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