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□季節はずれの花火
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新学期も始まり、既に数日。


夕食も終え、食休みもすみ、ようやく部屋にもどり授業の予習に取り掛かったときだった。


机の上においてあった携帯へかかってきた一本の電話



【着信 田島 悠一郎】



こんな時間にいったい何のようなのだろう。


不思議に思いながら花井は通話ボタンを押した。



「・・・もしもし」



『あ、はない!起きてた?』



受話器の向こう側から聞こえてくる声は妙にハイテンションで、思わず耳から遠ざける。



「るせえな、起きてるよ。まだ8時だろ?」



8時。普通の高校生が寝るにはあまりにも早い時間だ。


三橋でさえまだ起きているんじゃないだろうか。



『そうだけどさーもう寝てるかと思って。』



「寝てねえよ。んで、こんな時間に何のよう?」



問題を解き進めながら片手間に答えた。



『そうそう、いまから花火しないかなぁとおもって。』



「花火?!」



8月ならともかく、もう9月だ。


こんな時期に花火をやるやつなんてほとんどいないだろう。



『そうだよ!もー、急に大声だすなよなー』



耳がいてぇ、と受話器の向こうで田島が文句をいう。



「あ、ごめ・・・じゃなくて!なんでこんな時期に花火なんだよ?」



『いや、なんかしまっといたの忘れてたらしくてさー、出てきたからやろうかとおもって。だから今からうちこいよ!』



「今から!?」



あまりにも唐突過ぎる田島の誘いにまたもや大声をだしてしまう。



『そう!じゃあ待ってるから!』



「ちょ!おい田島っ・・・!」



呼び止める声もむなしく、無機質な機械音が電話を切られたことを伝えてくる。



「ったく・・・いけなかったらどうすんだよ・・!」



いくけどさ!とぶつぶつと文句を言いながらも机の上の教科書を片付けてあわただしく準備をしている自分がいたりして。



「あず兄どっかいくの?」



「彼女のとこ?」



がたがたと音が聞こえたのか、ドアの隙間から飛鳥と遥が顔をのぞかせた。



「ちげーよ!」



即座に否定すると、あからさまにつまらなさそうな顔をして文句をいっている。


まるでさっきの電話の田島のようだ。



「お前ら・・!!」



「「きゃーあず兄がおこったー!」」


きゃーきゃーといいながら自分たちの部屋へとどたどたとはしって行った。



「ったく・・・」



携帯と財布だけポケットに入れて部屋をでる。



「ちょっと田島のとこいってくる。」



台所で片づけをしている母に声をかけて、何か言っている声も軽く流して家を出た。


田島に誘われた時点で行く気だったなんて、あいつには絶対言わないけれど。


結局言われるがままに向かってしまう自分に苦笑しながら、夜の道を自転車で走っていった。












fin
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