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□HERO
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「たとえばの話なんだけどさ。」


それまでずっとイヤホンをつけて音楽を聴いていた水谷にが突然顔をあげ、たとえばの話を始めた。





―――HERO―――





「んー?」



食べ途中の弁当へとはしを伸ばしながら返事をする。水谷は何かを考えているようだった。



「誰か一人が死ぬことで、この世界が助かるんだとしたら」



なにかを思い出しながらたとえばの話をし、



「栄口は、どうする?」



その回答を俺にふってきた。



「えぇ?なにいきなり、どうしたの。」



突然の質問に首をかしげながらも、

水谷の聞いているプレーヤーに表示されてる曲名が見えて、

あぁ、と心のなかで納得する。



「水谷はどうするの?」



わかってる。

こういう時に求めているのはおれの解答じゃなくて、

自分がどう思ってるのか聞いてほしいってこと。


こうやって俺に質問を投げかけることで、

自分の考えを聞いてほしいということをアピールしている、それが水谷の癖。

だから俺は聞かれた質問に直接はこたえず、そのまま水谷へと投げ返した。



「おれはね、」



水谷は、いろいろと考えながらゆっくりと言葉を出していく。



「栄口のヒーローになれたら、それでいいんだ。」



うん、と自分で自分の言葉にうなづきながら水谷は続ける。



「世界をたすけたら、すごいすごい英雄になれるけど、でも俺はそんなことできないんだ。だって栄口と離れるのいやだもん。」



ちらっちらっとこちらをうかがいながら水谷は話す。



「ね、みんなそうなのかな。自分が死ぬのより、周りの人と離れたくないからいきたくないのかな。

でもそう思ってるのは自分だけで、まわりの人はさ、俺がいなくなっても別に悲しくないのかもしれないでしょ?」



そこまできて、ようやく水谷は話をやめた。じっと手元をみつめている。

捨てられそうな犬の顔。どうやら不安になったらしい。

いったいなにがここまで水谷を不安にさせているのかわからなかったけれど。



「俺は水谷がいなくなるのはいやだよ。」



箸をおいて、水谷へと向き合う。

今俺がしなきゃいけないのは、質問にこたえることじゃなくて、

水谷の不安を少しでも消してあげることだから。



「俺が行くって言ったら、水谷はとめないの?」



「とめるよ!」



本当にそういうことが起こったわけじゃないのに、泣きそうな顔になる。

それを見て、(あぁ愛されている)なんて、不謹慎にも思ったり。



「俺もおんなじようにとめるし、行かせない。それに、水谷がいなくなるのは、いやだ。」



うつむいたままの水谷に手をのばして、わしゃわしゃと髪の毛をなでたら

捨てられそうで泣きそうな顔をしていた犬は、ようやくほっとしたように笑った。








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