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□桜の木の下で 弐
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‘桜の木の下で―弐―’
「うっわ…」
絨毯の敷かれた廊下、頭上にうかぶシャンデリア。
靴のまま家に入るだけで違和感があるのにもかかわらず、なれないものが多すぎて頭がついていかない。
聞いてはいたが、自分の知らないところでこんなにもこの国は進み始めていたのかと阿部はため息をついた。
一般家庭で生活してきた自分には何もかもが物珍しい。
しかし、自分と同じくらいに見えるこの二人はすでにこの生活へとなじみ始めている。
これからこの世界に足を踏み入れていくのだと思うと、不安半分期待半分の複雑な気持ちだった。
「随分と緊張していらっしゃるようですね。」
「・・・洋館は初めてで。」
靴のまま敷物の上を歩くなんてどうも違和感が。と、ぼそりと思っていたことをつぶやく。
それを聞いた栄口は、一瞬驚いた顔をした後、くすくすと笑った。
「すぐに慣れますから大丈夫ですよ。」
「そうですよ、それにここは客人が来たときにしか使いません。主な生活はあちらの母屋の方ですから。」
栄口に同意しながら水谷がいった。指差すほうをみると、この洋館とはうってかわった日本家屋が建っているのがみえる。
広い母屋に、離れ。それをつなぐように美しく手入れされた庭がひろがり、それはさながら一枚の絵のようだった。
「こちらになります」
突き当たりにある大きな扉の前まできて、二人は足を止めた。