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□Is it smile?
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「今日、さ。お弁当一緒に食べない?」


普段自分のクラスで食べている俺が誘ってきたことに驚いた表情を見せる。

なんとなく。ただなんとなく。君が気になるから。

頭にめぐるのは、そのまっすぐな瞳を手に入れたい、ただそれだけ。


「いいけど、珍しいね。水谷が誘ってくるなんて。」


「いや、阿部も花井もいなくてさ。」


いつもみたいにへらっと笑って軽く返した。

この笑いは、こういうときに便利だと思う。

「へらへらするな」と阿部にはよく怒られるけど、

女子と話すときだってこうやって笑ってるのが一番楽。

いじらすだけいじらせて、話しやすいクラスメートの男子になりきる。

それだけでうまくやっていける、学校なんてそんなもん。


「・・・水谷ってよくわかんないよね。」


一瞬の間の後、栄口がそう呟いた。


「何がー?」


「何考えてるのか、よくわかんない。」


ほらそうやってまっすぐに俺を見る。

すべてを見透かしたようなその目が、おびえるところが見たい、なんてね。


「なんでさ、笑うの?」


「え?」


「俺水谷のその笑い方、好きじゃない。」


一瞬空気が止まる、いや、止まった気がしたのは俺だけ。


「なにそれー、栄口ひどくない!?」


もともとこんな顔ですけど、なんてまたへらり。

そのたびに栄口はじっと俺を見つめる。

気に入らないんだな、その顔が。

皆みたいにだまされればいいのに、ただ一人、君だけが。


「ほんとの水谷は、どんななの?」


くちびるからこぼれ出るコトバが煩い。


「なんでそうやって笑うの?」


君の瞳に映りこむ自分の姿が酷く冷たい。


「俺馬鹿だからなにいってんだかわかんないんだけど。」


笑って言ったつもりだったのに、巧く笑えなかったかも。

心なしいつもよりおちた声。


「とりあえずお昼食べに行こうよ、ここ人多いから、空き教室とか。あー腹減ったー!」


明るいコトバとは裏腹に栄口をつかんだ腕には力を込めて。

そろそろ本気で、君をもらいに。





fin
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