小話

□TF5
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・世の中は実写3の時代だというのに実写2エジプト戦終了直後の話。
・今更ですが自分設定全開です。



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「随分と男前になったじゃないか」
「うるせえよ」

自分の胸部装甲がべこりとへこみ歪んでいるのなんか見なくても分かる。糞、と口中で悪態をついたサイドスワイプは、傍らに立った機体を睨みつけた。サイドスワイプと同様に白い砂埃にまみれ傷だらけだが、機体の青い色は紛れもない彼――ジョルトは、軍医の助手らしくサイドスワイプの全身を簡易スキャンしながら、にやにやとあまり質のよろしくない類の笑みを浮かべている。サイドスワイプが拗ねている、その理由も分かっていて、面白がっているのだろう。
ちなみに彼が本来補助すべき軍医は、少し離れた建造物の陰で、重傷の仲間たちの応急処置を行っていた。先ほどまで戦場だった砂漠の真ん中でできることなど限られているが、華奢な体躯に直撃をくらってしまったアーシーや、スパークの近くに穴を開けたアイアンハイドなど、基地に移送するにもある程度の処置はしておかなければ危険だ。
ジョルトは別に、他の比較的軽症と思われる仲間たちの確認をしているらしい。サイドスワイプのスキャンを終えて、一番大きな損傷が砲撃による胸部の中度損壊、活動に支障なしと確認すると、どこか安心したように排気を洩らした。対してサイドスワイプは不機嫌なままだ。
サイドスワイプは優秀な戦士である。火力こそ他の仲間に一歩譲るが、ブレードの扱いには秀でていて、それと持ち前のスピードを活かした接近戦を得意としていた。
しかしさらさらと流れる砂に足を取られるこのコンディションでは、思うように動きがとれない。自分の持ち味を生かすことができず、それが酷く歯痒く腹立たしかった。戦場を選べないのは仕方がないと分かっているが、それとこれとは別の話だ。
それにたかが人間の空爆ごときに煽りを喰ったのも情けない。爆撃の衝撃に耐えきれず転倒して頭から砂に突っ込んだのも間抜けだったし、そのせいで自慢のシルバーの外装が歪んでしまった(それはほんの少しではあるのだが)のも面白くなかった。
こんな無様は二度としないと低く唸るサイドスワイプに、ジョルトは人間の火器もなかなか侮れないなと軽く笑ったが、すぐに真顔に戻った。

「リペアはアーシーとアイアンハイド、それにオプティマスが先だとラチェットは判断した。お前も含めて他の連中はその後になる。問題ないか」
「了解。撤収まで周囲の哨戒を続けておく。何かあれば呼べ」

その言葉に頷いてから、ジョルトは首を小さく傾げてみせた。

「リペアはしてやれないが…エネルギーは要るか?」

ディセプティコンと死闘を繰り広げた後である。アイアンハイドの弟子らしく、常に先頭に立って敵とやりあうサイドスワイプのことだ、エネルギーの消耗も激しいとジョルトは診てとったのだろう。よければ分けてやるがと申し出た彼の両腕を、サイドスワイプは黙って見下ろした。視線が険しくなるのは無意識だ。
指の先端から上腕部まで、外装は黒く灼けただれ、元の鮮やかなメタリックブルーは見る影もない。所々装甲がひび割れ歪んで、内部構造が覗いているのが痛々しかった。リペアができないというのは、技術や物資が足りないといった意味ではない。単純に彼の手が損傷して動かないからだ。
戦闘で破損したものではない。オプティマスとジェットファイヤーのパーツを繋げる際に、限界以上の電力放出を続けた結果だった。機体タイプの違う彼ら――しかも二体とも大型だ――を合体させ、同時にほとんど動けなかったオプティマスにエネルギーを供給する。接続こそラチェットの仕事だったが、その補助と、それにかかる電力およびエネルギーの供給ができるのはジョルトだけだった。その負担がどれほどのものだったか。
元々そのためのシステムを備えているし、またエレクトロウィップを始めとした電磁系統の装備を主として使う機体だから、それなりの処理はしているはずだった。それでもこの有り様なのだ。
自己修復機能が生きているらしいのは幸いだろう。見ているうちにも割れた隙間から窺える内部では、細かいコードがちりちり動いて再び繋がろうとしている。焼き切れた回路ももう少しかかるだろうが、いずれ再生するだろう。それが分かっていても、サイドスワイプの気は晴れない。
サイドスワイプの視線の先に気がついて、ジョルトはもうすぐ動くようになると言い訳のようにもごもご言った。その様子にサイドスワイプの苛立ちはいや増していく。
(無茶をしやがって)
その無茶をしなければ、今こうして太陽を拝んでいられなかったのは理解しているが、それにしても。先ほどまでの、自分に対するものとは違う種類の苛立ちに、スパークがじくりと疼いた。切ないような苦しいような形容しがたいその不快感は、しかし何故か表に出すのも躊躇われた。澱むそれを腹の底に飲み込んで、サイドスワイプはふんと排気を吐き出してみせる。

「余剰があるならオプティマスたちに回せ。俺はいい」
「だが」
「それよりその黒焦げになったマニピュレータをどうにかしておけよ。俺をリペアするときに中まで汚されちゃ適わん。どうせおまえがするんだろう?」
「任せてくれるならな」
「この程度ならおまえで十分だ。やれ」

その無駄に尊大な言い草にジョルトは笑い、痛んだ片手を僅かに動かした。ぎこちない動きにきしきしと耳障りな音がする。青い火花がぱらぱらと落ちていく様がやけに癇に障って、サイドスワイプは更に憮然と顔をしかめ、それが視界に入らないようそっと体の向きを変えた。






20110808


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