小話

□FE2
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暁3部12章あたり。

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やたら寒がりなわりには、ライはなかなか体温が高い。初めて触れたときは熱でもあるんじゃないかと疑ったくらいで(本人にはそんなわけあるかと大いに笑われた)、正直それだけ熱い体なんだから寒さなんか気にならないのではと思っていたのだが、本人に言わせればそもそも暖かい気候の祖国では雪が降るほど冷えることなんて滅多になく、寒さにはあまり耐性がないらしい。
耳が凍るほどの寒さなんて知らないと渋面を作っていた彼は、デイン国内を進むにつれて、昼間はともかく夜になるとよくくっ付いてくるようになっていた。季節は冬、酷いところでは一年のうち半分近くも雪に覆われるという国だ。日のあるうちは寒そうな素振りなど見せないくせに、一日の仕事を終わらせてしまえば少し気も緩むらしい、部下もいなければ我慢する気も起こらないのだろう。寒い寒いとぼやきながら身を寄せてくる、それでもその体は暖かかったのだが。
今日も「寒くて眠れねー」なんて言いながら寝床に潜り込んできたのだが、その体が外気に冷えてひんやりしていると思ったのは一瞬で、すぐに全身ぬくぬくと暖かくなっている。
実はこちらも今夜はなかなか毛布の中が暖まらなくて辟易していたのだが(なにしろ地面がすっかり冷え切っていて、敷物数枚程度では這い上がってくる冷気を防げないのだ)、ライが来たらあっという間に暖まって、こちらにしてみればでかい懐炉か行火が入ってきたようなものだ。
寒い夜でも眠りをもたらしてくれるこの熱は、翌日まで疲労を残さずにすむという点で、自分にとっても大変助かるものだ。
しかし時々身じろいだ拍子に手足が触れるたび思うのが、こちらがこれだけ暖かいと感じるということは、実はライにとって俺はそんなに温くない、というか逆にちょっと冷たいくらいなのではないだろうかということだ。
というようなことを本人に言ってみたら、ライは眠気にとろんとした眼を何度かまばたかせて、べつにそんなことない、と緩い声で答えた。既に半分寝ているのだろう、全身力が抜けているのが雰囲気だけでもよく分かる。

「あったかいから来てるんだぜ。寝られないとこになんか来ない」

それはそうだ。体を休めたいときに、わざわざ不快になりにくるわけもない。

「だろ。…でもアイクが眠れないってのなら、もう来ない、けど」
「そんなことはない」

拒むつもりで言ったのではなかったから即答する。
それにここに来ないということは、自分ではない誰かの寝床に行くということだ。その様を想像しただけで、何やら言い表し難いがとにかく不愉快なもやもやが、胸の中で渦を巻いた。その馴染みのない感覚にぎくりとする。何だこれは。

「俺も…ライが来てくれると、寒くなくていい」

正体の分からないそれに戸惑いながらも何とか続けた言葉に、ライはほんのり表情を緩めて、少し笑ったようだった。そのままかろうじて開いていた瞼が閉じる。

「ならいいだろ…もう寝ようぜ」

オレもうほんとねむい、と吐息に紛れるような呟きのあと、すぐに寝息が聞こえてきた。安心しきったような無防備な様子は昼間の皆が揃うときには決して見られないもので、つまり自分の前では油断できるくらいに気を許してくれているということなのだろう。
その事実をしみじみと噛み締めていると、先ほどまで感じていた胸のざわつきがすっとなだめられていく。その上どこか嬉しいような、浮かれたような心持ちにさえなるものだから、そんな自分の心の動きをやっぱり不思議に思う。
だがまあどうでもいいかと思いなおした。彼に誤解をさせずに済んだようだし、結局自分はとても気分がよいのだし。悪いことなど何もない。
間近で静かに繰り返される呼吸の音にじわりと眠気を誘われて、安らいだ気分で目を閉じた。





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