小話

□TF3
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ロードバスター→ホットショット殿。7話前半あたり。

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再生槽には薄赤い色をした液体が満たされている。時折ごぼりと音を立てて泡が上っていくのは、装置がそういう仕組みになっているのか、あるいは沈められた機体から残った空気が逃げているからなのだろう。
その機体が沈められてから随分経った気がするが、未だ彼の目覚める気配はなかった。無惨に引きちぎられた右腕は再生し、その他の損傷も(少なくとも外見上のものは)すっかり回復している。だというのに目に光が戻らない。
彼が任務に赴く前、最後に言葉を交わしたときは、地球に来て初めて見た空の色みたいな柔らかな青の瞳で笑いかけてくれたものだ(しっかりやれよと声をかけられて、自分がどれほど舞い上がったか彼は知るまい!)。
あの色を早く見たかった。情けない顔をするなと、笑い飛ばして安心させて欲しかった。こんな小さく弱々しい姿など、見たくはなかった。
そういえばとふと思う。こうして改めて見る彼は、実際のところ自分より随分と小さいことに、初めて気がついたのだ。
中型の中でも大柄かつ重量級な自分に比べ、彼は比較的小柄な部類で重量だって軽い方だ。体格の差は歴然としているはずなのに、これまでそれをそうと感じなかったのは、彼のもつ戦士としての風格や(なにしろ彼は十年前の戦争で若輩ながらに司令官代理まで任されたこともあるのだ!)雰囲気によるものだったのだろう。
それに自分にとって彼は憧れの対象、目指すべき対象であり、近いようで未だ遠い存在だ。そもそも目上というものは、それだけで大きく見えるものだというし。
けれどもこうしてそれら全てを取っ払って見る今の姿が、彼の素なのに違いない。まじまじと見つめるうち、酷く落ち着かない気分になってきて思わずため息をついた。
彼が敬愛すべき対象であるのは変わりないのだけれど、どうにもそれだけには思えなくなってきたのだ。
守りたいという気持ちは以前からあったが、それは彼が組織の上官であるから、あるいは戦う仲間であるからという理由で、それは彼に対してだけではなく、他の仲間たちに対しても思うものだったはずだ。
だが今はそれだけではない。彼を傷つける何事からも(それは物理的なものだけでなく精神的なものからも)守りたい。言うなれば庇護欲とでもいうべきものか。
自分のような若輩者がそんなことを思うのは烏滸がましいのかもしれない。しかしこんな小さな身体で大きな責務を負い、それでも迷わずまっすぐに立つ、このひとを守り支えたいと強く思うのだ。他ならぬ自分が、この手で。

手を伸ばし、プールの厚いガラス壁に触れた。彼と自分を隔てるそれを、彼に触れているかのようにそっと撫でる。自分は彼にこんな風に触れたことはないが、いつかそうできればいいと思う。彼は生意気だと笑ってくれるだろうか。それとも嫌がって逃げるだろうか、あるいは怒り出すかもしれないけれども。
彼は相変わらず目を覚ましはしない。それでも気にせずに口を開く。ホットショット殿、と小さく呼んだ。

「自分はあなたのために戦います」

彼が聞いていなくても構わなかった。これは自分のための誓いの言葉なのだから。





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