小話

□FE
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蒼炎と暁の間くらい。
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なあアイク、と間延びした声で名を呼ばれ、木陰に座って休んでいたアイクは隣の友に目を向けた。アイクと同じように木の幹に背を預け、だらんと四肢を伸ばしているライは、視線を受けるとにやりと笑んだ。

「おまえオレがおまえのこと好きっつったらどうする?」

アイクは表情を変えないまま、左右異色の目を見つめる。

「どうって、何がだ?」

質問の意図を掴めないアイクであった。聞き返されて、ライはぱちりと目を瞬かせる。水色の毛に覆われた猫の耳が一瞬だけ、困ったような悩むような、何とも微妙な風に揺れた。

「あ〜…たとえばだ、オレがおまえとキスしたいとか言ったら、おまえはどう思うかって」
「…したいのか?」
「いや、仮定の話。別に本気でしたいとかじゃなくてさ」

ふむ、とアイクは少しばかり考えた。親友で男のこの猫と、キス。色恋沙汰などとは縁遠い生活を送ってきているアイクだが、別にやることをやっていないわけでもない。一応これでもそれなりの歳だ、何かやたらと楽しそうなガトリーに娼館に連れていかれたことだってある。二度目はなかったが。
その少ない経験と、目の前の友とを照らし合わせ、ううん、ともう一度唸った。

「やってみないことには分からんような気もするな」
「…それ、やってもいいってことか?おまえそんな趣味あったっけ」
「そっちから聞いてきたんだろうが」

真面目に考えて答えてやったのにさも意外そうに返されて、さすがのアイクも少し呆れる。そりゃそうなんだけどさ、とライはもごもご呟いていたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ああ、いや、悪い悪い。ま、アイクらしいといえばらしいよな。でもさ、ちょっと間口広すぎやしないか?」
「一応状況と相手は選ぶと思うぞ」
「オレならまだいいってことか?」
「そうだな、想像してみたらそんなに悪くない気がした。よく見たらおまえきれいな顔してるし」

顔かよ、とライは呆れたように空を仰ぐ。

「んじゃおまえんとこの参謀殿とか、キルロイとかもそうじゃないか?」
「それは…そうかもしれんが、どうだろうな。二人とも家族みたいなものだし」

逆に馴染み過ぎていて想像しにくい。眉間に皺を寄せてアイクが考えていると、ライはあいつはどうだこいつはどうだと重ねて訊いてくる。いちいち答えていたアイクだが、そのうち面倒になってきて、言葉が途切れたの狙って口を挟んだ。

「しかし今日はやけに絡むな」
「ん?そうだな、まあ暇だしな」

けろりと答えた彼は悪びれた風でもない。つまり暇人に遊ばれていたらしいとアイクは嘆息した。与太話も嫌ではないが、どうせ付き合うならもっと別のことがいい。

「それなら手合わせの相手をしてくれると嬉しいんだが」
「ん〜、構わないっちゃ構わないけど、おまえ手加減なしだからなあ」
「手を抜いたら鍛錬にならないだろ」
「前にしっぽ斬られそうになったときはほんとびびった」
「結局掠らせもしなかったくせに何言ってる」

前回やり合ったとき尻尾を使ったフェイントに見事に引っかかったことを思い出し、アイクは渋い顔をする。ライはうひひと笑ってみせて、それから何かに気付いたように、瞳をきらりと輝かせた。

「そうだ、付き合うからさ、そしたら一回やらせてくれるか?」
「何をだ?」
「だからキス」

そう言って、ライはずいと身を寄せると、小首を傾げてアイクを見上げた。上目遣いの猫の目は誘うみたいに濡れている。いつもより近い位置にある、緩く弧を描く薄い唇がやけに生々しく見えて、つい視線が吸い寄せられる、のに気付いたアイクはぎくりとして思わず身を引いた。

「…本気じゃないんじゃなかったのか?」
「だから冗談だって言っただろ!」

先ほどの妙な雰囲気はどこへやら、青猫はあははと明るく笑う。そのまま身軽く立ち上がると、憮然とするアイクに向かって「手合わせするなら早くやろうぜ」と何事もなかったみたいに笑いかけた。





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