小話

□brave2
2ページ/5ページ



**


と思っていたのだが、意外に気にしない奴もいたらしい。しかもそれを自分に要求してくるとは思わなかった。正確には望まれたのは抱きしめることではなくキスで、ついでに好むのではなく好奇心からのチャレンジであるらしいのだが、とにかくどちらも双方が密着しなければならない行為には違いあるまい。
エメラルド色のアイセンサーを未知のものへの期待と好奇心から通常の二割増しで輝かせるマッハランダーを前にして、ジェットセイバーはそんなことを考えていた。
先日の事件が尾を引いていたらしい。昼寝をしていた隊長が、知らない間に誰かにキスをされた。その相手を探せという、実に無茶な命令を出されかけたのだ。
直後に敵が襲ってきたので結局その話はうやむやになったのだが、あれだけ隊長が大騒ぎしていたキスという行為とその意味について、好奇心旺盛なこの男が食いつかないはずもなかったのだろう。
唇と唇を重ねる、または唇で相手の身体の一部に触れることで好意を伝える。あるいは確認をする。
好意云々はともかく、唇という部位について新しい使用法を提示されたのだ。付いていて使えるものならやってみたいと思うのが、そしてそれを即実行に移してしまうのが、せっかちなこの男らしいといえばらしかった。
それにしてもだ、とジェットセイバーはひっそりとため息をついた。

「何故私なんだ?」
「近場にいたのがおめぇさんだったからよ」

思い立ったときに空を飛んでいる姿が見えたのだとけろりと答えるマッハランダーに、ジェットセイバーは内心で今日この空域を飛んでいたことをそっと悔いた。

「同じランダーズなんだし、ターボランダーあたりに頼めばいいだろう」
「俺があいつとか?やめろよ気色わりィ」

心底嫌そうに身震いする姿に、私ならいいのかと突っ込みそうになったジェットセイバーであるが、何だか聞きたくない返事が返ってきそうな気がしたのでやめた。
一方のマッハランダーはどうにも煮え切らない相手の態度に苛々してきたのか、ふんと鼻で笑ってみせた。

「何だ、怖じ気づいてんのか?おめぇそんな腰抜けだったかよ」

安い挑発だった。そもそも唇を重ねるだけの行為に怖じ気づくだの腰抜けだの、どうしてそういう発想になるのか分からない。何かの勝負なのかそれは。
しかしそんな突っ込みは思っていても口にしないジェットセイバーである。勿論挑発に乗ってやる義理もないので、いたって冷静に事実を指摘した。

「しかし物理的な問題として、あなたと私のボディの厚みがあるだろう。これではどんなに首を伸ばしても届きはしまい」

ジェットセイバーの方はともかく、マッハランダーは原型となったスポーツカーのフロントがほぼそのまま胸部についている。その厚みはなかなかのもので、つまり遠回しな拒否のつもりでジェットセイバーはそう答えたのだ。
しかしマッハランダーは、にんまり笑んで大丈夫だと胸を張った。

「心配すんなって。それっくらいちゃんと考えてらぁ」




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ