小話

□brave1
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*ブレサガ設定です。
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ふたりきりで会うときは、始終にこにこと幸せそうに笑っているやつだった。
あんまり幸せそうなその様子に自分も嬉しくなってつられて笑うと、相手はますます笑みを深める。普段の凛としたのもいいが、少しの照れと恥じらいが混じった柔らかな笑顔は彼を大変可愛く見せた。
そんな顔をさせているのは自分で、ついでにそんな笑顔を向けられるのも自分だけなどと考えると、本当に嬉しくて仕方ない。
そうしてふたり寄り添って、ぽあっとのぼせるような幸せに酔っているうちに貴重な逢瀬の時間は過ぎていき、結局何もしないまま別れてしまうのが常だった。

*****

「へたれだな」
「うっせ」

ぎゃははと爆笑する仲間たちに口元を歪めてそう返し、ビッグランダーは手元のカップをぐいと煽った。中身の半分ほども一気に呑んでぶはぁと大きく息を吐く。
喉ごしはよいくせに腹の底からじんと灼くような心地よい熱をもたらすオイルは、最近新しく仲間になった連中からの差し入れだ。
さっぱり知らなかったのだが、どうやら世界は勇者に溢れていたらしい。グランダークとかいう悪の意思に対抗するため集まった勇者たち、その中によその星の宇宙警備隊とやらに所属している連中がいるのだが、最近遅れてやってきた仲間が母星から大量に仕入れてきたのだと言って、にこにこしながらくれたのだ。かなりの量を。
せっかくなので皆で飲もうと乾杯したのが、もう数時間も前の話である。

「だってよぉ“見つめ合うだけで幸せ★”な〜んて素でやるとかよぉ、今時小学生でもそりゃねぇよ!いつの時代の少女漫画だよそれ!」
「しかも似合わねー!!」
「キモい!キモすぎて腹がよじれる!!」

床を叩き、あるいは腹を抱えてひいひいと笑い転がるランダーズの連中を、ビッグランダーは黙りやがれと怒鳴ってどついた。口と手が同時に出るのはこういう場合のお約束だ。

「似合わねーことやってんのは百も承知だってぇの!俺だっていい加減やっちまいてぇよでもあいつが本気で可愛いんだよ死ぬほど可愛いんだようっかり時間忘れんだよ仕方ねえだろこん畜生!!」
「もうそれうっかりじゃねえだろこのへたれ!」
「明らかに腰抜けだろいっそ死ねよこのへたれ!」
「アホか死ねるかこのボケェ!!」
調子に乗って煽るターボランダーとマッハランダーに、頭に血の上ったビッグランダーが踊りかかる。
そのまま乱闘のおっ始まった一角を眺めてけらけらと笑うのは空を守る勇者たちで、彼らの手元にも同じカップが握られていた。

「愛されているな」

にやにや笑うホークセイバーが、カップの中身を啜りながら隣に座るジャンボセイバーの肩をつつく。件の白と空色の機体は照れているのか何なのか、カップを持ったまま顔を伏せていて一言もない。

「いや羨ましい。マッハランダーなんて逢えば即押し倒そうとしてくるのだから」

もっと落ち着きと雰囲気というものも大事にしてほしいものだ、と溜め息と共に愚痴をこぼすジェットセイバーは、けれども語る内容とはうらはらに口元がほんのり綻んでいる。するとぺたりと座り込んだシャトルセイバーが、ターボランダーもそうですよと手を上げた。

「だががっついてくるのもちょっと可愛いと思うんだ」

なんだか必死という感じがたまらないとくつくつ笑ってカップを抱える。ああ分かる分かると青い機体が頷いた。相手にしている連中が仲間うちでも精神的に若く腕白だという点で似たもの同士、抱く感想も近くなるらしい。
顔を見合わせて「ねー」とにまにま微笑むふたりをホークセイバーは面白そうに眺めていたが、ふと隣の仲間が肩を震わせているのに気がついた。笑っているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「ビッグランダー!」

そういきなり怒鳴ったジャンボセイバーに、さんにんともがぎょっとした。ついでに揉み合っていた陸の連中もぎょっとして動きを止めた。
礼儀正しく落ち着いた物腰が売りのセイバーズ、そのなかでも一番おっとりしている彼が声を荒げるなど、戦闘中でもないかぎり滅多にないことだ。
何だ、一体何が彼の逆鱗に触れたんだ。
皆が注視する中、ジャンボセイバーはゆらりと立ち上がった。

「あなたは…あなたってひとは…」

握った拳をぶるぶる震わすジャンボセイバーは、覚束ない足どりでそちらへ歩く。
捨て置かれたカップの中身がとうに空になっていたことに、シャトルセイバーが今更気づいた。
そういえば皆で分けて飲めと貰った大きなタンクも、いつの間にか随分軽くなっている。
はてそんなに飲んだっけ、と記憶を手繰ったが思考がふわふわしてまとまらず、よく思いだせない。成る程、このオイルには気分を高揚させると同時に記憶を少々あやふやにする作用があるのだな。
そう結論付けたシャトルセイバーは、にんまり笑って頷いた。
きっと人間のいう酒に近いものなのだろう。嗜好品なんてものに縁のない自分たちだから、こんな機会でもなければ体験できなかったに違いない。新しい仲間と広がる出会い、それが純粋に嬉しいと思う。明日にでも改めて礼を言っておこう、ファイバードに。
翌日の予定をそう決めて、シャトルセイバーは満足しながら自分のカップを呷った。
さて名前を呼ばれた赤いトラックはマッハランダーに乗り上げたまま、近づいてくる空色の機体を見上げていた。見下ろしてくるジャンボセイバーの表情は、逆光とバイザーのせいでわからない。
彼はふたりの側で立ち止まると、何事かと息をつめて見守るふたりに、びしりと指を突き付けた。

「なんなんですかそれは」

えらく棒読みの質問に、ビッグランダーとマッハランダーは意味を捉え損ね、は、と揃って首を傾げる。するとジャンボセイバーは、ひくりと口の端を震わせた。

「わたしには乗らないくせに…他のひとになら乗れるっていうんですかあっ!」

わたしには触ってくれもしないくせに!といきなり泣き崩れたジャンボセイバーに、たっぷり一呼吸分の間をおいて、ビッグランダーが裏返った声で叫んだ。

「いやこりゃ明らかに違ぇだろ!」





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