小話

□brave1
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号泣するジャンボセイバーとあたふたするビッグランダー、そんな陸の勇者のリーダーに「ジャンボセイバーを泣かすなんて!」とジェットセイバーとシャトルセイバーが色めき立って得物を向ける。マッハランダーとターボランダーも面白がって彼らに倣い、「ビッグランダーを捨てるんなら次俺なんかどうでぃ!」と立ち上がったドリルランダーは「ふざけんなてめぇ!」とビッグランダーからスパイクシュートをかまされ、無言のホークセイバーからホークダーツをくらって昏倒した。十数本のダーツをまとめて眉間にぶち込むあたり、ホークセイバーの技の冴えは今日は特に素晴らしい。
そんなランダーズとセイバーズ入り乱れての乱痴気騒ぎからひとり離れて飲んでいたダ・ガーンは、深く重く溜め息をついた。
否、ひとりではない。金色のでかいライオンが纏わりついている。機嫌良さそうに懐く彼は喉をごろごろ鳴らしながらダ・ガーンを舐め…否、かじりついていた。所謂甘噛みというやつだ。
傷を付けられることはないのだが、自分より大きさに勝るライオンに頭だの肩だの腕だのをがぶがぶやられ続けるのには、さすがに少々気が滅入る。オイルの混じった涎で頭からべたべたになるし。
濡れた頬を手のひらで拭って、ダ・ガーンは何度目かの溜め息を吐いた。

「いい加減やめてくれないか、ガ・オーン」

そう鼻先を押さえて窘めると、窘められたライオンは悲しそうに目を眇め、身体を丸めて喉を鳴らした。まるで捨てられた子犬のような哀れっぽさに、ダ・ガーンはくらっとする。お前一応猫科がモデルじゃないのか。
きゅうきゅうと切なく鳴く大型猫科(のようなロボット)と睨み合う。ここで折れて甘やかすわけにはいかないのだ。――折れてしまえば自分は朝まで彼に構われ倒さねばならない。それは流石に身体が保つ気がしないダ・ガーンである。
気合いを入れ直し、睨み合う目に力を込めた。

*****

翌朝。
ダ・ガーンたちの部屋を訪れた星史は、中の惨状に目を丸くした。
広い部屋が壁といわず床といわず、何かと戦いでもしたかのように傷つき壊れ荒れ果てている。その中でセイバーズの4体は互いを抱きしめるようにして団子になって寝ているし、ランダーズの連中は何故かズタボロになって転がっていた。
生きてはいるらしいのだが、声をかけても起きない彼らに星史は焦った。
鉄壁の防御を誇るこのモビィ・ディックに敵が侵入したとは考えにくいが、とにかく尋常ではない状況である。自分一人の手に余る事態なのは間違いない。
慌てて一番信頼している相棒の姿を探すと、部屋の奥で丸くなっている巨大なライオンの下で、青い何かがもぞりと動いた。

「…そこにいるのは…星史か…?」
「ダ・ガーン!無事なのか?!」

駆け寄ってきた星史に、何とか首をもたげたダ・ガーンは薄く笑んだ。その疲れ果てたような力ない笑みに、星史はますます不安を募らせる。

「大丈夫か?みんなに何があったんだよ」
「すまない、星史。見ての通り、今日は皆、使いものになりそうにない…愛美にもそう伝えてくれないか」

ごうごうといびきをかくガ・オーンの重みに苦しそうにしながらも、ダ・ガーンは故障や負傷ではないから心配しなくていいと星史を宥め、それから、と付け加えた。

「ファイバードたちに…宇宙警備隊の皆に、今後は心遣いだけ、有り難くいただくと…そう…」

そこまで言って、がくりと意識を失った。

「おい、ダ・ガーン?!ダ・ガーン、しっかりしてくれよ!一体何があったっていうんだよお!!」

力尽きた地球の勇者は、もうぴくりとも動かない。荒れ果ててオイル臭に満ちた部屋の中、取り残された勇者たちの隊長の、必死な呼びかけだけが高い天井にこだましていた。







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