小話

□TF1
1ページ/1ページ



眼下に蹲る青い機体の肩部装甲に昨日はなかった派手な傷を認めて、サイドスワイプは不機嫌を隠そうともせずに低く唸った。

「看護兵が戦う必要なんてないだろ」

そう咎めても、ジョルトは視線も寄越さず、ラチェットだって戦ってる、と古参の軍医の名を挙げてこともなげに返した。手元の作業を止めることも相手にする気もないらしい態度に、サイドスワイプは苛立ちを募らせた。
大体だ、お前の戦い方は危なっかしいんだ。内心で苦々しげにそう吐き捨てて、相手の腕に目をやった。今は青い装甲の内に収納されている彼のメインウェポンは、高電圧を帯びる鞭だ。下手に当たれば回路をショートさせるどころかスパークにさえ損傷を与えるほどの威力をもつそれを、しかしサイドスワイプは持ち主ほどには信用していない。
彼らは非常に強固な外装をもつ種族であるが、その同族に対する武器としては、鞭という形状は、そもそも直接的な殺傷能力が低すぎるように思われるのだ。
武器や外装甲を破壊するのには致命的に向いていないその武器で、万が一にも自慢の電撃が通用しない相手と対峙したときは一体どうするつもりなのか。ましてジョルトもサイバトロンの例に漏れず、ひどく好戦的な質だった。本来なら戦闘向きの機体でないにも関わらず、だ。

群れいる敵を罠に嵌めてまとめて始末してやる瞬間が一番胸がすく。

彼がけろりとしてそんな風に語ったのを聞いたとき、サイドスワイプは背筋がひやりとしたものだ。罠とやらがうまく嵌ればよいだろう。けれども破られた瞬間に、状況は多対一になる。そうしてその状況を捌けるほどには、ジョルトは決して強くはない。
そんな危うい戦い方では、いつか本当にこいつはやられてしまう。今は目の前にあるするりと滑らかな装甲が、見るかげもなくひしゃげ捻れて大地に打ち捨てられる様など、想像したくもなかった。
だからだ、とサイドスワイプは苦々しく思う。彼がそんな戦い方をしなくてもすむように、その青が地に沈むことがないように。最前線にいる自分がすべて引き受けなぎ倒すのだと、ひっそりと心に決めたのは、それほど最近のことではない。
尤も元々戦闘型として生まれた自分にとって、敵と戦い叩き潰すことは生きる意味であり仕事、趣味であり喜びである。やることに結局変わりはなく、戦うことへの後付けの理由がひとつばかり増えただけだ。それなりの付き合いがある、まして貴重な看護兵だ、自分より先に戦場で倒れられては後々困るし寝覚めも悪い。サイドスワイプはそう思っている。

サイドスワイプ、と呼びかける声に、彼ははっと顔をそちらに向けた。先ほどまでずっと足下に向いていた、装甲よりもずっと浅い青色をしたアイセンサーが、不思議そうに見つめてきている。

「お前がぼんやりしてるなんて、らしくないなサイドスワイプ。何かあったのか」
「…ちょっと疲れただけだ」

そう誤魔化すとジョルトは小さく首を傾げ、もの言いたげにしていたが、しかし結局それ以上は追及せずに、リペアの終了だけを告げた。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ