小話

□TF6
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映画前、サイバトロン星時代(と思ってほしい)。



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いつ果てるとも知れない戦争において、自分に望まれたのが敵を倒すための力よりも味方を癒やすための力だということに、ジョルトは酷く憤慨していた。

「俺は戦力として期待されてないってことか」

戦闘が終わり、銃器の過熱が収まる頃になっても剣呑な色が失せない同朋へ、サイドスワイプは呆れたような視線を向けた。

「メディックだろうがオペレーターだろうが、今の状況じゃ動ける奴は全員戦わなきゃどうにもならない。立ってる奴は全員戦力、おまえはその上ラチェット仕込みの腕まで期待されてるんだ。つまり人の倍買われてるってことだろ、誇っとけよ」
「その割には後方待機が多いけどな。治療用にエネルギー残しながら大人しく後ろで豆鉄砲撃ってろって?やだね俺はこの手で全力で思いきりあのクソ共をぶちのめしたい」
「気持ちは分かるが大事なメディック様にほいほいいなくなられたら困るんだよ色々な。まったく、何でよりによってお前みたいな血の気の多いのに医療系の技術があるのか理解に苦しむぜ」
「勝手に苦しんでろ、俺の知ったことじゃない」

ジョルトは苦々しげに言い捨てる。
しかしそんな風に愚痴を言うくせに、いざ助けを求める者が現れたなら、彼の手は迷うことなく治療のために動くのだ。
今だってサイドスワイプと言い合いながら、その手は忙しなくリペアに勤しんでいる。

先の戦闘で敵の銃弾が雨霰と降る中を、サイドスワイプは左腕を盾にして突っ込んだ。強襲に怯んだ敵尽くを斬り伏せてその場を制圧できたのはよかったが、その際盾にした腕のちょうど関節部に弾丸が食い込み、動かせなくなったのである。部下の無茶を拳骨ひとつで諌めたアイアンハイドは、ぎしりと軋んだ音を立てるばかりで動かない左腕を見て、とっととリペアしてもらってこいと今度は尻を蹴飛ばした。

ジョルトは電気に変換した自分のエネルギーを他機にも分け与えることができる。その能力に目をつけたラチェットが医療補助員として無理やり技術を叩き込んだらしいが、性格的にも知力的にもあまり出来のいい生徒ではありえなかっただろうこの戦士を、よくぞ使い物になるまで仕込んだものだと、サイドスワイプは感嘆の念を禁じ得ない。
ラチェットのような本職でもホイルジャックのような科学者でもないから完璧にとはいかないが、それでも自分で適当に処置するよりはよほどいい。実際のところ、消耗と破損の激しい前線においてリペアの技術を持つ者は貴重なのだった。
偉大なる軍医に改めて感謝しているうちにリペアは終わり、ほら終わったぞと差し出していた腕を押し戻された。

「武器の調整は自分でやれ。破損じゃないなら俺は診ない」
「分かってるよ」

武器にはそれぞれ癖と思い入れがあるだろうから下手に手をつけたくないというのがジョルトの弁であるが、診ないじゃなくて技術的な意味で診れないじゃないのかとサイドスワイプは常々思っている。もっともそんなことを一々つついて臍を曲げられるのも馬鹿らしいから、言ったことはないのだが。
すっかり元通りの見た目に戻った関節は、痛みも違和感もなく滑らかに動く。ひょっとすると負傷前より具合がいいのかもしれない。
機嫌をよくしたサイドスワイプが素直に礼を言うと、ジョルトは居心地悪げに身じろいで、どういたしましてとそっぽを向いた。


 

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