□拍手作文
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日中は未だ汗が流れるほど暑いのだが、夕暮れになれば涼しい風が立ち始める。日が落ちてしまうと肌寒くも感じられ、夏掛けの薄い布団では少し物足りなく思う季節であった。
夜中にふと目覚めたのはやかましいほどに鳴く秋虫の音のせいか、開け放した窓から入る冷えた空気のせいなのか。月の光もなく時間の感覚も曖昧なまま、ぼうと見上げた天井は黒い闇に沈んでいた。
急に心細いような切ないような不思議な心地に襲われて、無意識のうちに片脚をのろりと動かした。いつもならば伸ばした先には暖かい体温が触れるはずなのである。
けれども脚先は夜気に冷えきった薄い敷布を掻くばかりで、そういえばとそこでようやく気が付いた。
いつでも側にあったあのぬくもりは、もう失ってしまったのだ。
薄い掛布を肩まで引き上げ、身体を少し丸めるようにして目を瞑る。冬が来るまでにはこの寒さにも慣れねばなと思いながら、深く息を吐き出した。


 

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