□つきがみちる
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 月も落ちた夜半、仕事の合間を見計らって袖を引いた。


 いかに馴らした身体であっても、十年も間を空ければ流石に硬くなろうというものか。そんな妙な感慨に浸りながら、カンベエは古女房のしなやかな身体に手を這わせていた。滑らかな肌の所々、記憶の通りに触れてやればその度びくりと跳ねるのは昔のままだ。しかし脚の狭間の二人が繋がる箇所だけは、奥まで侵入しようとする指をまるで初めてみたいにぎちりと締め付け拒むのだ。

「これ、シチ。もう少し力を抜かぬか。これではどうしようもない」

 耳元に口を寄せて吹き込むように囁くと、目元を真っ赤に染めたシチロージはひくんと震えて熱い息を一つ吐いた。

「っ…できる限り、…が、これ以上は、」

 掠れた声でそこまで言うと、あぁ、と呻いて身を捩った。埋めた指先がいい所に触れたらしい。幾度かそこを擦り上げると、堪らぬといった風情で身悶え、強く縋りついてくる。薄く開いた唇から、殺し切れなかった甘い悲鳴が続け様に零れ落ちた。

 実に久方振りに見る古女房の嬌態に煽られて、自身の欲もはち切れんばかりに膨れ上がっている。けれども指を呑ませたそこは、初めに比べれば少しはましになったものの未だきつく閉じていて、このまま受け入れさせるのは少々酷にも思われた。かといってきちんと馴らし解してやるには、今は少々時間が足りない。もうじきに見張りの交替に出ねばならなかった。

(今宵は仕方あるまいな)

 懐かしい身体の隅々まで貪り尽くしたい気持ちはあるが、だからといって傷付けたいわけではない。それにこの硬さ馴れなさは、離れていた長の年月、誰にも許さなかった証拠でもある。その心を思えばこそ、無理を押す気にはなれなかった。何よりこうして睦むのは、今夜が最後というわけではない。これからまた、じっくりと馴らしてやればいいだけのことだ。

 儂も我慢強くなったものだと心の内で苦笑すると、空いている手でシチロージの右手を取り脚の間へ誘導した。立ち上がりきった己の欲と彼の欲とを、纏めてその手に握らせる。

「今宵は、…中には入れぬゆえ、」

 お主が導け。低い声音で命じると、すっかり紅く染まった身体が弾かれたようにびくんと跳ねた。二人の熱を掴んだ右手が、ゆるゆると淫靡に動きだす。荒い呼吸に重なるように、濡れた音が闇の間に響き始めた。


 

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