□かたくにぎる
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主がこちらに背を向けて歩き出したので、いつものように従おうとしたが、足が一向に動かない。どうしたことかと焦るうちにも背中は遠ざかるばかり、慌てて呼ぶとふいと振り返った。
置いて行かれる恐怖に襲われかけていたから(そもそも何故置いて行かれるのが恐ろしいのだ?)、安堵して両手を伸ばした。
主は珍しくも少しばかり躊躇って、戻ってくると差し出したうちの左の手を取った。
六花が重なり握られる。
その手が酷く冷たいことに疑問を抱く前に、己の腕がすとんと抜けたのを感じた。
主の手には抜け落ちた己の左腕、驚いて顔を見上げると見慣れた苦笑を浮かべている。己が無茶をしでかす度に見せていた、仕様のない奴だとでも言うような。
そのまま踵を返したので追おうとしたが、足は変わらず地に縫い留められでもしたかのように、一足たりとも動かせない。
今度こそ恐ろしくなって再び主を呼ばわったが、まるで聞こえていないとでもいうように真っ直ぐ先へ歩いてゆく。その腕に己の左腕を絡ませたまま、動けぬ己を置いたまま。

 
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