他短編

□Zero
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あぁ






こんなにすぐ傍







吐息が重なる‥







Zero







「‥景、吾っ。んっ‥」


「な、ん‥だよっ!」


「んぅ‥はぁ‥」




息が出来ないほど舌を絡めて



唇を重ねる。



お前の温もりを感じたのはGW以来だ。



「待って‥景‥っ!」



待てるわけ、ねぇだろう?



「んなこと言うとこれ以上のことすんぞっ」


「‥でもっ。せめて部屋に入ってか‥らっ」


「ドアは閉めたんだからいいだろっ」



この日のために急ぎで造らせた別荘。



駅まで迎えに来てくれたお前の笑顔が久しぶりで、めちゃくちゃ愛しくて。



触れたいと考えることは自然のことじゃねぇか。



それでも家の中に入るまでは我慢したんだぜ?



玄関で靴も脱がずに口付けるくらいなんてことないだろ?




「景吾‥」




だんだん抵抗をしなくなってきたので唇を放して見つめれば、とろんとした目で見つめ返して来た。



「なんか幸せね」


「あぁ」




優しい声で静かに刻まれたその言葉に今ここに二人でいられるという至福をただ抱いて



お前の手をとって部屋に入った。




ここが夏休みが終わるまで二人で暮らす家。



まだ生活感が何もない部屋だが、ゆっくり色々なものを置いていこう。



そしてそのうち、この生活が永遠になることを願って‥



「ねぇ、景吾」


「あぁ?」


「あのね、これあげる」



差し出されたのは小っせえ熊の縫いぐるみがついたストラップだった。



「それね、目に十月の誕生石を模った硝子玉が入ってるの。景吾と似てたからなんか買っちゃった」


「この熊と俺のどこが似てるんだよ」



よく見てみるが全くわからねぇ。



「なんか澄ましてるところ!」


「そこだけかよ!!」


「後ね、口許が妙に釣り上がってるところかな」


「お前いつも俺がへらへらしてたらどう思う?」


「遂に壊れたか、跡部様!って思う」


「遂にって何だよ」


「うわ、景吾ってツッコミ出来たんだ」


「‥お前、遊んでんだろ?」


「ばれた?」


「遊ばれてやってたんだよ」


「アハハ。ありがとう」



そうやって可愛く笑うから、また胸が締め付けられる。



心臓を鷲掴みにされたようなそんな感覚。



それでさえお前が与えるものだと思うと愛しくなって。




「‥まぁ、ありがたくもらってやるけどよ」



熊を携帯につけながらベッドに座り込んで立ったままのお前に微笑むと、不意に呆然とした表情をするお前。



‥なんか悪いことしたか?




「どうした?」


「あ‥アハハッ」




はっとしたように表情を緩めるお前は次の瞬間








大粒の涙を零した。







「お、おいっ‥」


「け、景吾っ‥景吾」




いきなり抱きついてきて俺の胸に顔を埋めたお前はそのまま啜り泣いた。





ただ俺の名前を呟きながら‥






「なぁ‥」







お前の気持ちは






よくわかる。







「淋しかった‥よ」


「なら、今から埋めてこうぜ?」





俺も淋しかった。






だが、言えるわけねぇだろう?







言葉になんか俺の気持ちは表せねぇからな?






「うん」


「好きだ」








胸の中、小さく震える肩を優しく包んで






彼女の髪にキスを落とした。










これから夏が終わるまで







一年分の愛を紡いで行こう。














End..






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