星のカービィ

□本当に欲しかったコトバ
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ロボットたちが放った攻撃が地面を抉る。

悲鳴を上げ逃げ惑う人たちを安全な場所で眺め、上司は嘲笑っていた。

謀反者を始末する最強の兵器を作り出せ。

上司の命令はそれだけだった。

逆らうものは研究所から連れ出され、死体という変わり果てた姿で戻ってくる。

まだ、死にたくない。

生き延びるために、上司の言う通りに作った。

どんどん上がっていく要求に応えるために自分の腕を磨いた。

ある日、動作テストだと言って、私が作ったものを持って小さな村へ連れて行かれた。

どこにでもある、平和な村。

そこの中心に、私が作ったロボットたちが攻撃を打ち込んだ。

どこにでもある平和な村は、一瞬でこの世の地獄となった。

上司が上機嫌で私を褒め称えた。

さすが天才科学者、と。

不思議な姿の人物が、逃げ遅れた村の人を助けた。

安全なところまで誘導すると、私の作ったロボットの攻撃を難なくかわし、一体、また一体と破壊していく。

その人が動くたびに赤いマントが翻り、黒いロッドが銀色の線を描く。

私が作ったものなのに、不思議なことに壊されても悔しいという気持ちは起こらなかった。

上司が歯軋りをするのが聞えた。

今までよく聴いた、気に入らない者を連れ出す前の音。

忘れたくても忘れなれない、死への合図。

横を向くと、上司がその人へ向かって手榴弾を放るのが見えた。

止める間もなかった。

その人の足元で火柱が立ち上り、バランスを崩す。

無防備な頭へロボットの腕が振り下ろされる直前、姿が掻き消えた。

―――――

今にも崩れそうな廃屋で、その人を見つけた。

どこか幼さの残る、これまた別の種族の2人が前に出て、私の進路を遮った。

彼らを驚かせないように、なるべくゆっくりと薬の入ったビンを取り出した。

ロボットを開発する傍ら、負傷者の治療をする薬も作っていたのだ。

いつもは持ってきていないのだが、今日は何故か持っていた。

そのことを言うと、その人は2人を下がらせ、自ら私の方へ歩いて来た。

赤と黒が混じった澄んだ瞳でじっと私を見つめ、火傷をした部分を私に差し出した。

慎重に薬を垂らすと、一瞬で火傷が消えた。

その人は驚いた様子で、すごいすごいと何度も言った。

こんな純粋な反応は久しぶりなような気がした。

その人は満面の笑みで、ありがとう、と言った。

今まで周りの者から私に向けられたどの表情とも違っていた。


あのロボットを作ったのは私だと言った。

生き延びたいがために、殺す道具を作ったと告白した。

何故か、この人になら言える気がしたのだ。

その人は特徴的な目を真ん丸くして私を見つめ、

でもこの薬を作ったのもお前だろ?と言ってきた。

オレを助けてくれたじゃないか、と。

人を救える道具も作れるじゃないか、と褒めてくれた。

それは上司に褒められた時と違って、嬉しいのだが、何だか胸が苦しくて。


会ったばかりの人の前で、初めて泣いた。



Fin.

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