本棚3

□怒りと悲しみの行方
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誰かに見つめられている視線を感じ、アリーは、ゆっくりと片目を開けた
長身の男がしゃがみこみ、雨の中、ゴミのように横たわるアリーの体を拾い上げた


「・・・アリー?」


懐かしいタバコの匂いだ
コラソンの声を聞き、肩に回された大きな手に触れた
何か返事を返したかったが彼女の肉体は疲れ、返事の代わりに微笑んだ


「何があったんだ!?」


アリーの頭の中で、コラソンと会わなかった三ヶ月の間に起きた出来事が映画のワンシーンのように浮かんでは消えて行った
サディスティックな海軍兵・・・
妻子持ちの中年男・・・
酒屋の優しい青年・・・
全て風のように吹いて跡形も無く消えた


「・・自業自得ってやつよ」


震える手でコラソンの頬に触れ、アリーは完全に意識を失った






雨は激しさを増し、窓ガラスが割れてしまうのではないかというほど叩きつけた
もし、あのまま自身がアリーを見つけなかったらどうなっていた事か・・・
コラソンはアリーの体を休めようと、近くの宿屋へと運んだ


ーーくそ!どうすればいい!?


雨で濡れ滑りやすい地面の上を走り、ドジッ子コラソンが転ばなかったのは奇跡と言えるだろう
彼はいつも以上に慎重に走った
腕の中で、愛しい女が病気で苦しんでいるのだ
アリーと、また出会えたのも奇跡だ


とにかく、体を温めようとコラソンはずぶ濡れのアリーの衣服を脱がし、全裸にするとバスタブの中へとそっと体を沈めた
蛇口をひねり湯の温度を確かめながら、バスタブに湯を張った


アリーの体は傷だらけだった
幼い頃につけられた傷とは別に、明らかに新しくつけられた傷だ
それに、赤く腫れた頬・・・
タオルを湯に浸し、鼻から垂れる血を拭いてやると彼女は反応を示し目を開けた


「・・・ここは?」


キョロキョロと周りを見回し、見知らぬ部屋で裸でいることを認識しパニックを起こしアリーがバスタブの中で暴れたので、コラソンは落ち着かせようと押さえつけた


「いや!触らないで・・!!」
「アリー!落ち着け・・おれだ!」


コラソンの赤い瞳に見つめられ、アリーは落ち着きを取り戻した
暴れるの止め、腕を下ろすとバスタブにぽすっと背をもたれかけた


「・・あんたが、あたしをここまで運んでくれたの?」
「・・・そうだ」
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