ディアーユー

□プリンの人
1ページ/1ページ



ゾルディック家のメイドとして仕事を始めてからナマエは疲れを感じることが多かった。昼間はメイドとして働き夜はキルアやカルトの相手をしたり、キキョウにファッションショーをさせられたり。かと思えばイルミからふとしたタイミングで針を投げられるので気が抜けない。最近では投げられてもビッグニュースというわけでもなく、むしろ避けるのが上手くなりその度に針は増えるのだ。これをイルミは特訓の賜物だよねと言った。ナマエは特訓なのかとその都度首を傾げたくなった。
こんなこともあるので、同僚達からは妬まれるどころか気の毒に思われていた。そしてありがたがられた。ナマエの存在があってゾル家の人々は何かと円満なのでそれが良いのだとか。

「んん?チョコロボくん?どこだそれ?」

そして今日の仕事はゾル家三男のキルアのお使いであった。天空闘技場で得たファイトマネーの全額を使い果たしてしまうほど、お菓子に目がないキルアのお使いは大変だった。本当はキルアも行きたがっていたのだがあいにくキルアは特訓があって行けなかったのだ。「一緒に行けねーんだったら別にいーよ」キルアはふてくされた顔でそう言った。しかし、ナマエはキルアの拗ねた顔を見てそんなにお菓子が食べたいのかと勘違いし張り切って1人でやって来たのだった。しかし、来てみればキルアのお菓子を買う感覚はものすごいもので、量といい種類といいナマエの考えていた範囲を軽く超えてしまった。

「よし、チョコロボくんゲットー!」

ナマエはチョコロボくんを手に入れ、生菓子のコーナーへ移動した。メモ用紙に踊る文字「プリンあるだけ」
そして、カートの中にプリンをあるだけ入れていく。

「買いすぎじゃないかな?」
「へ?」

もちろん最後の一個も入れようとしたナマエだったが、後ろから男に声をかけられてその手が止まる。
これが、クロロ=ルシルフルとの出会い。











オレが生菓子のコーナーについた時には女がそこにあるだけのプリンをカートに入れているところだった。

「買いすぎじゃないかな?」
「へ?」

思わず声に出してしまうと女は驚いたようにこっちを振り返る。
振り返られて逆にこっちが驚いた。可愛い女。そう思った。

「あ、ごめんなさい」

謝りながら最後の一個もカートに入れた女。
......ちょっと待て、入れるか普通。
入れたとしてももう少し考えてから入れてくれてもいいんじゃないのか。

「ひとつ、譲ってくれないかな」

オレは笑顔を作って幻影旅団の団長としてではなく、クロロ=ルシルフルとしてプリンの譲渡を求めた。

「ごめんなさい、主人の命令で」
「主人?既婚者なの?」
「あっ、違います!私の雇い主です、といっても今日は雇い主のお子様のお使いですが」
「ああ...なるほどね」

女は慌てて撤回する。
そうだな、この女はとても既婚者には見えない。可愛いから、人目は引くかもしれないが、とても男を知ってるようには見えないな。

クロロはナマエの全身を見た。

「それで、坊っちゃまはお菓子がないと死んでしまうので、諦めてください」
「そんなに繊細なの?」
「ええ、自分で買いに行けないことさえ嘆いてるくらいですから」
「いや、でもひとつでいいんだ」
「うーん、どうしよう」

小首を傾げてプリンひとつに本気で悩むナマエはとても可愛らしかった。クロロは少しどきりと心臓が鳴るのを感じた。

「じゃあ、そのプリンをあんたに譲ったとして、オレはなんかいい事でもあるのかな?」
「いい事...ですか?」
「ああ」
「例えば?」
「そうだなー...じゃあ身体、とか」

試しに言うと女はかあっと耳まで真っ赤になってオレの胸にプリンを押し付けた。

「私は...未成年です!!」
「ククク...」

ちょっと反応を見てみようと思ったが想像以上に面白いものが見れた。しかもプリンまで。
女はオレといるのが嫌になったのかお菓子しか入っていないカートを押して足早に離れ始める。
おっと、こんな面白いのはなかなか見れたもんじゃない。ここでみすみす逃すのは惜しいってもんだ。

「ついてこないで下さい」
「さっきのは冗談だよ」
「わかってますよ!ちょっとびっくりしただけです」
「未成年って言ってたけど、歳はいくつなの?」
「そんなの、あなたには関係ないです」
「つれないこと言わないでさ」
「...17です」
「へえー、若いんだね」

もっと、子供に見えたが。
花街の女だったらこれくらいでもずいぶん垢抜けたのがいるもんだけど、汚れてないってのはこうも違うものなのか?
それともこれがガキなのか。

「あなたは?」
「ん?オレ?」
「私の聞いたんだから、教えるべきですよ。フェアじゃないです」
「なるほどね......オレは26だ」
「そうですか、意外といってるんですね」
「よく言われる」

このカッコの時は。

「まだ、何か用ですか」

ナマエはレジまでついてくる男を怪訝そうに見た。

「せっかくこうして会えたのも何かの縁だと思わない?」
「思いません」
「......」

即答か。

「まあ、これからも仲良くやってく証としてアドレスでも交換しようよ」
「しませんよ、何言ってるんですか......あっ!」

女は拒否をしたがすでにこいつの携帯はオレの手の中にあった。
すごく驚いたようで目をパチパチさせている姿もなかなか可愛かったな。
あいにくこっちは盗むのが専売特許なもんだから、一般人から携帯を盗むなんて造作もない。
オレは女の携帯に自分のアドレスを入れ、自分のものにも女のを入れる。

「いつの間にっ」
「えーっと、名前は」
「......ナマエ」
「ナマエ、ね」

登録完了。
ナマエに携帯を返してやる。
すぐに電話帳を確認するナマエ。

「クロロ...さん?」
「よろしく」
「......」

ナマエは不服げにオレを見上げた。
そう怒るなよ。

「何かあったらなんでも協力してあげるから、その時はそこにメールして」
「......」
「あ、もちろん有料だけど」
「私、お金ありませんからあなたに頼むことは何もないです」
「その時は身体で払ってもらうからかまわないよ?」

また耳まで真っ赤にするナマエは見てて愉快だった。
今日はいい日だ。







クロロだしたはいいけど、あまり出てこない予定...

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ