水素ガール

□闇にダークレッド
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「これが落ちてた」

クロロが仮宿にしている廃ホテルのロビーで、今回のメンバー全員にスケッチブックを見せる。最初に反応を示したのはシャルナークだった。「あ、それナマエのだ」と声をあげる。初めて会った時に使っていたスケッチブックであったから、覚えていたらしい。

「落ちてたってどこにだ?」
「公園」
「あいつ忘れたのか??」
「ならいいんだが」

そうクロロが言うには理由がある。何しろこのスケッチブックはナマエの商売道具だ。表の顔としても裏の顔としても、どちらにしろナマエには手放せないものだ。

「...大丈夫かな、ナマエ」
「きとバカだから忘れただけよ」
「でもスケッチブックはナマエの商売道具だよ?」

オレ、心配だから連絡とってみるね!とシャルナークは自分の携帯に触れ、慣れた手つきでナマエに電話をかける。
プルルルルル、プルルルルルー
コール音が響く。しかし、ナマエは出そうにない。

「出ないよ...」

不安そうにシャルナークは全員を見回す。すると携帯ではなく、パソコンに一通知らないアドレスからのメールが来ていることに気がついた。こんな時だから嫌な予感が否めない。それでも一旦大きく深呼吸し、電話を切り冷静にそれを開いた。
(落ち着け、オレ)
自分で自分に言い聞かせたが嫌な予感は見事に的中した。一人で内容に目を通し眉をひそめる。シャルナークの落ち着かない表情にウボォーギンも首を傾けた。

「なんだァ?」
「......オレ読むよ」

内容をシャルナークが代表して読み上げる。

「ナマエは預かった。こいつが殺されたくないなら、お前らのうち一人が盗んだ女神像を持って下に書いた場所まで来い。必ず一人で、だ............文はそれだけだね。下に指定された場所の住所が載ってるよ」
「......」
「なんだよこれ、オレらのことなめてんのか」

フィンクスが指をボキボキ鳴らした。額には血管が浮かび上がっている。

「見て、動画がついてる!」

メールに添付された動画をシャルナークが指摘すると、クロロ、フェイタン、フィンクス、ウボォーギンが後ろから一斉に覗き込んだ。


動画を再生した。まず最初に映ったのはナマエの顔だった。意識はあるようだが、口からも鼻からもどす黒い血を流していて、白かった肌は今は赤黒くなっている。撮られていることに気づいて「やめろ」と声を上げ弱々しく睨みつける。するとアングルが遠ざかり次はナマエの全身が映る。ボロボロの服は申し訳程度にしか肌を隠しておらず、もはや衣服としての意味をなしていなかった。顔と同じように全身怪我を負っている。

「何これ...」

シャルナークはポツリと漏らす。

次はさらに遠ざかり、カメラをまわしているのとは別の人物が何か鋭いものを持ってナマエの上に跨った。そしてその鋭いものをナマエの二の腕に尽きたて動かす。肌に何か彫っている。周りが暗いのとアングルが遠いのとではっきりとはわからない。しかし、何時ものような快活さを失いぐったりするナマエもこの痛みには耐えられずに叫び始めたのだから尋常ではない痛みであることは間違いないと言い切れる。
『やぁっああああぁああああああ!!!!!!!いゃああぁあああ!!!いっいいいいいいいっう、っく!きゃあああぁあああ!!!!!』
ナマエの悲痛な叫び声が響き動画は終わった。

数える気もないが、数多の人を惨殺してきた旅団だったのに、ついその動画には息を飲んだ。

「...どうしてナマエが...」

今にもキレそうなシャルナークが自分の手を握りしめながら言った。
ナマエと自分達に何があるんだ。恨みがあるなら直接しかければいい。それをこんな手で......腹が立った。

「フェイタン」
「何ね」
「今の悲鳴はどうだったよ。そそったか?」
「......」

フィンクスがフェイタンを見下ろした。無言になるフェイタン。俯いて、ただひたすら下を見ていた。それでも誰もフェイタンを咎めたりはしない。
しばらく沈黙を通した後にフェイタンの肩は小刻みに震え出した。ヒクヒク喉を鳴らす音が聴こえる。笑っていたのだ。最初は音にはならないような声で、次第に不気味さを孕んだ狂気地味た声で。
(そそるだって?)
(この悲鳴に?)
自分の額を手で押さえてフェイタンは笑った。しかし別に愉快でこんなに笑っているわけではなかった。ひとしきり笑ったフェイタンは何時もみたいに眉間にしわを寄せて口を開く。

「どうやて殺そうか......考えたら止まりそうもないよ」
「......」
「残念なのは一人一回しか殺せないことね。一回じゃ、ワタシ気が済みそうにない」
「随分と、腹立ってんな」

ギラリと目が光る。
常人なら気絶してしまいそうなほどとてつもない殺気がその部屋に渦巻いた。


旅団に喧嘩を売った分
ナマエを傷つけ泣かせた分
ワタシを怒らせた分


三回はコロシテヤリタイ


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