水素ガール

□セーフティプレイス
1ページ/1ページ



「恋って......恋ってゆーけどさ、私にはそんなのよくわからない」

恋した恋したなんて言われてもよくわからない。誰にしてるかも不明。それがナマエの本音だ。
昨日もフェイタンとフィンクスに聞いたが、二人ともしっくりくる回答はくれなかった。そもそも、フェイタンなんかは答えてさえくれなかったのだ。

「どうして私が恋したとか言うわけ?」
「そうだなァ、ボクをそこまで拒否するようになったってところかな?」
「前からしてるつもりだったけど」
「ん、でもなんだかんだ受け入れてたのも事実でしょ♦︎」
「......ヒソカ、たまに怖いし」

恩人であるからなのか、いつも仕事にかこつけて迫られるのをどうにも拒否できないでいた。それに向こうは騙すしバンジーガム使うしで、ほとんどレイプじみている。

「まあ、根拠なんかないんだけどね♠︎」
「......」
「ナマエ?」
「......犯されたい」
「え?」
「犯されたいって思う人がいればそれは恋なの?」

昨日フィンクスが言っていたやつ。フェイタンはろくでもない男だと罵ったが、そんなのは人それぞれなのだ。フェイタンも人のことをバカにはできないが。
ヒソカは至極面白そうなものを見る目でナマエを見た。喉がヒクヒク動いていて、笑いを堪えているようだ。

「くっ、面白いこと言うね♦︎」
「だって、そう言う人がいたんだもん」
「恋をどう感じるかは人それぞれじゃないかな...♥︎」
「...そっか」

まあ、そんなもんか。恋とは一括りにできないものらしい。食堂のおじさんはドキドキするのが恋だとか言ったし、相手を知りたくなるのが恋だと言う人もいた。しかしだとすれば、どれもこれもナマエには当てはまらない気がした。誰かにドキドキもしてないと思っているし、その人のことを知りたいなんて、恋でなくたってあること。

「ボクの場合はドキドキばかりが恋じゃないと思ってるよ♠︎」
「ふーん、なんで?」
「ドキドキなんか、恋じゃなくたってするもんだろ?」
「まあ、ね」
「やっぱり、人それぞれってやつだね♣︎」
「うーん、そうだね」
「あっ、例えばだけどさ、」
「?」
「この人と何回もキスしたいと思う、とかはどうだい?」
「...どうって言われてもヒソカと以外はあんまりしないし」

それも無理矢理だが。

「そう、じゃあボクとまたキスしたいと思うかい?」

ヒソカが聞くとナマエは何を聞くかとばかりに呆れ顔で首を横にゆるゆる振った。

「それは残念♥︎」
「ないない」

大して残念でもなさそうにヒソカは笑う。

「じゃあ誰かと試しにキスしてみればいいのさ♠︎」
「はあ?誰と?」
「だから、誰かとって言っただろ?」
「そんな簡単に言ってくれるよ」

キスなんか誰かれ構わずにするものか。今だって既に目の前の相手に無駄遣いしてしまっているのに。
「あ....♦︎」ヒソカは終始ニヤニヤしていたが、何処か遠くの人の渦を見て口を開けてモーションが完全に停止してしまった。知り合いでもいたか?どうした?と思って振り向くが、ヒソカの知り合いなんか知るわけもなくて、どれもみんな普通のオークション参加者にしか見えない。

「ボクもう帰る♦︎」
「え?ヒソカ団員なんじゃ」
「今回は頭数に入ってないし」
「ちょ、」
「フラれたらいつでもボクのところにおいで、じゃあね♥︎」
「あ、ちょっと!」

ポン。頭をひとなでしてヒソカは足早にナマエのもとを離れて行った。「だからもう会わないって...」口からぽろっと漏れる。「じゃあね」なんてまた会うみたいだ。本当によくわからない奴。ヒソカのいなくなった先を見つめてベーっと舌を出す。
ヒソカと無駄話をしているうちにどうやらもうすぐ競売は始まるようで、人の足はぞろぞろと競売が行われるホールへ向かう。

六日連続でフェイタンには会ったけど、流石に今日は無理だったか。ナマエはそれが少し残念な気もした。
(ここで待ってたら会えるかな)
何と無くそう思ってしまうと足は不思議と動かなくなる。

「もしかして...ナマエ?」
「!」

帰るか帰るまいか迷っているとどこかで聞いたことのある声がナマエを呼んだ。びっくりして振り向くとそこに立っていたのはクロロ=ルシルフル。
いつもと同じ白いバンダナにピアス。違うことと言えば最初に会った時のスーツよりもやや服装が整っているか?というぐらいなもんで、それでもレストランで一度食事をしているのでそんなに普段と変わるところもない。むしろ、いつもよりも変わっているのはナマエの方だ。
振り返ったナマエの姿にクロロは一瞬固まった。

「...あれ、間違え」
「てませんよ」
「ああ...やっぱり」

クロロは不思議そうにナマエを頭のてっぺんからつま先までジロジロ眺め回した。完璧な変装だと思っていたのに、ヒソカにクロロにと見つかりまくっている。

「すごく驚いた、そんな格好するんだ」
「いや、ちょっといろいろ諸事情があって」

ん?司書っていうのはオークションに参加できるほど裕福なのだろうか?頭にそんな疑問が過った。

「驚いたけど、意外とありかもね。綺麗だよ」

クロロは笑いながら「でも今日はオークションはやめといた方がいい」と言った。不意にナマエの手をとり自分の元へ引き寄せる。
クロロに引き寄せられると何故だか急にグランと目眩がして、視界がぐるぐる回る。やっとのこと見上げたクロロの顔は、なんだか笑っているような気がした。

「っ」
「今日は危険なんだ、知ってるだろう?」

倒れかかるナマエをクロロは支えて意識の有無を確認する。もう、意識は手放しているようだ。ナマエを抱えながらソファへと運び座らせる。そしてポケットから携帯を取り出し呼び出し音を鳴らした。

『はーい、もうフェイ達殺る気満々だけど』
「ああ、シャルナーク」
『何?』
「ロビーに来てくれ」
『いいけど、どうしたの?』
「困ったちゃんが一人いてな」
『ふーん?ま、今行くよ。じゃ』

ピッ。電話が切られるとクロロは天井を見上げてふう、と一息吐いた。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ