水素ガール

□嘘つきのオークション
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髪の毛をしっかり巻いて、化粧もバッチリ。大きなサングラスが顔を半分は隠している。女性らしい身体が表れる黒いドレスに毛皮のコートを身につけたナマエがオークション会場を眺めていた。
(来ちゃった......)
サングラスに隠れた目はどうなっているかわからないが、赤い紅をひいた唇が不安そうに歪む。
オークション目当てにやって来た人々で会場前は賑わい、どんどん中へと吸い込まれて行く。

もしもヒソカが来てしまっていたらどうしようと考えると昨夜は眠れず、ついに変装してまでナマエはオークション会場にやって来てしまっていた。別に情報を旅団に売ってしまった今、ターゲットがどこでどうなろうと情報屋には関係ないのだが、どうにも気になってしまい今に至る。ヒソカはどうしてナマエがターゲットの情報を売れないのかを知っているようだったし、もしも旅団とヒソカと自分で一悶着ある時には間違いなく死ぬのは自分だと思ったのだ。

少し緊張しつつ会場に足を踏み入れると、辺りはどいつもこいつも金のありそうな大人ばかりだ。まさか本当にヒソカがいないかどうか人で溢れるロビーを怪しくない程度に眺める。

「!!」

いないようにいないようにと祈りながら、目に飛び込んだのは悲しいかな赤い色の頭だった。正装してソファに座るあれはヒソカだろうか?いや絶対ヒソカだ。彼特有の雰囲気と言い、あんな目立つ髪色そういない。
しかし向こうはまだナマエの存在には気がついていないよう。これ幸いと、人混みを掻き分けつつ化粧室に逃げ込もうとそーっとそーっと足を進める。もちろん絶を忘れない。

「やあ、ナマエ♥︎」
「!!ぎゃあああああ!!!」

しかし、ナマエの目の前にはあの胡散臭い笑顔を浮かべたヒソカが立っていた。こんな大人に成りすましたのにも関わらず、子供、いやあまりに驚いて人以下の叫び声をあげてしまう。

「どどど、どうして!」
「おっと」

ヒールが高かったこともあり、かくっと足がすくんだところをヒソカに支えられる。
ヒソカの腕の中で、さっき赤色の頭が座っていた位置を確認するとやはりそこにはもう誰もいない。完璧にあれはヒソカだったのだ、そしてこれもヒソカ、とナマエは思う。

「な、なんで!」
「キミがここに来ると思ってたのさ♣︎キミがボクが来るんじゃないかと思ったようにね?」
「そんなっ...」

まるでヒソカの手の上で転がされているみたいな気分だった。情報は漏れるし行動も容易く予想されてしまう。情報屋として最悪だ。
もう終わった。ジ・エンド。さようなら自分。旅団かヒソカには殺される気がしたが、ヒソカだったとは。
ナマエはヒソカの黄色い目を見つめながらぶるっと震える。そんなナマエにヒソカは喉を鳴らして笑った。

「...その様子だと、キミはとんでもない勘違いをしてるね♦︎」

ひとしきり笑って口を開くヒソカ。

「...は?殺すんでしょ?」
「別に、殺すなんて一言も口にしてないよ?キミを殺すぐらいならヤりたいケド♠︎」

ヒソカはナマエのサングラスをとって頭を優しく撫でる。

「....なんで殺さないの?」
「それは」
「それは?」
「ボクも蜘蛛の一人だからね♥︎」
「......」
「......」
「......」
「どうかしたかい?」
「あはっ、あははは、ヒソカは嘘と呼吸が同じだもんね」
「嘘じゃないさ♦︎」

ヒソカはニヤニヤしながら、自分は蜘蛛の一員であり、普段はあまり仕事に参加していないがごくごく気分でここへやって来たのだと言った。
そんなもん信じられるか!とナマエは思ったが、これでどうしてヒソカがわざわざターゲットを被せてきたのかも、ナマエが心配でここへやって来ると予想できたのも納得がいく。何故漏れたのかと自分の失態だと思っていたが。

「それ本当に?」
「もちろん」
「じゃ、じゃあ......この街に潜伏するメンバーで一人言ってみて」

こんなこと言うのもどうかと思ったが、確かめる方法はあとは刺青くらいなもので、そんなの確かめさせてなどと言った時にはまた何かされるに違いない。
ヒソカはそうだなあ、とわざとらしく考えるそぶりを見せてナマエの耳に顔を近づける。

「...フェイタン、とか?」
「!」

囁かれた名前は確かに自分の知る旅団の一員の名前だった。それもここのところ毎日会っている奴の名前。
驚いて目を見開きヒソカを見ると、向こうは何やら「へぇ、そうかい」と、わけのわからないことを言った。

「じゃ、じゃあ私、殺されないの?」
「騙してゴメンよ♣︎」

爽やかとはとうてい言えない笑みで謝った。そうゆう風に打ち明けられると、本当に脱力感しかなくて脱力感の後には怒りが込み上げてくる。騙す意味がわからない。

「なんで、騙す必要があんの」
「うーん、特に理由はなかったんだけど......強いて言えばナマエと会いたかったからかな?」
「会ってもヤるだけのくせに...!」
「まあ、否定はできないね♥︎」

何かと仕事だ仕事だと言って誘ってくるヒソカ。

「あ!そうだ」
「?」
「私、もうヒソカには会わないって決めたんだ!」
「おや、どうして?」
「ヒソカと会うのは私にとって"無茶"なの」
「あァ、ナマエ、すごく変なこと言うね♥︎」

忘れかけていたがヒソカは「無茶」に分類されたのだった。
ヒソカからサングラスを取り上げてまたかける。腕を組んでヒソカを見ないようにぷいとそっぽを向く。赤い口が不機嫌を表すように強く結ばれた。

「ナマエ」
「ふん」

聞いてやるものかと思うのだが、ヒソカにはそんなこと関係ない。

「.........くく、やっぱりキミ、恋しただろ?」
「...え!?」

つんとした態度をとろうとするナマエを弄ぶかのような発言。しかしナマエはやっぱりその言葉「恋」にだけは反応してしまうのだ。
まただ。この人はまたそうやってからかう...。ナマエは思わず反応を示してしまった自分に後悔した。










ここからが楽しいです。もちろん、私が。七日目は三話構成です。

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