ディアーユー

□お仕置き
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「イルミ様」

別にお仕置きって言っても何も思いつかないまま連れて来たんだけど、言ったからにはオレはやるよ。

「イルミ様っ!」
「うるさいな、なんだよさっきから」
「血が...」

ナマエっていうメイドは自分の手のひらから流れる血がオレの手についていることを指摘した。
てゆうか、なんでそんなすまなそうな顔するわけ?
その血はオレが傷つけたから出てるんだよ?
悪いのはオレなんだよ?
......ん?オレが悪いのか?
いやいや、こいつがオレをイライラさせたからだよ。あー危ない。なんかこの顔見てたらこっちが悪いような気になるところだった。

「イルミ様に血がついてしまいす!」
「だから?」
「お洋服が汚れたら、私がシミ抜きしないといけなくなります!」
「......」

自分の顔って自分で見れないけど、たぶんオレ今すっごいあきれた顔してるんじゃないのかな。
でも、まーそりゃそうだ。血は落ちづらいからね。暗殺やってればわかるよ。普段は返り血浴びるようなへまはしないけど。

「お前はどうしてほしいわけ?」
「血がお洋服についてしまうので手を離してください」
「離してほしいの」
「はい」
「そっか、じゃあ離さない」
「えっ?」
「言ったよね、お仕置きって」

って言っても離さないくらいでお仕置き完了なわけもないけど。
オレは嫌がるこいつをズルズル自分の部屋の前まで引っ張って言った。
さあ、何する?お前も拷問の練習でもする?

「さ、どうしようか」
「イルミ様...」
「お前には拷問は耐えられないかもね」
「......」

あーあ、下向いちゃった。

「拷問は怖い?」
「っ、当たり前です!」

ナマエは少し怯えたようなでも怒ったような顔をしてイルミを見上げた。キレイな形をした唇がきゅっとしまっていて、可愛い顔が引き立つ。

「......」
「...イルミ様は私を殺したいのですか?」
「......」
「?イルミ様?」
「、あーごめん、少しぼーっとしてた」

なるほどね、母さんがこの子を雇った理由もオレから庇う理由も、キルが気に入っちゃった理由もなんかわかった気がする。
一言で言えば整ってる。
目は大きすぎずちょうど良いし、二重まぶたと細すぎない眉毛が合ってる。鼻も通ってるし。でもなんと言っても口かな。唇の形が驚くくらいキレイだ。それなのにこの顔と性格の幼さがキル達のツボなのかもね。
かまいたくなるんだろうね。オレは違うけどさ。

「きっと、お前を殺したら母さんがうるさそうだね」
「?」
「ちょっと待ってて」

イルミはナマエを置いて自室に入って行ったと思うとすぐに出て来て、怪我したナマエの手にタオルを巻いた。

「イルミ様、これ...」
「包帯なんてものオレの部屋にはないよ」

あんまり怪我しないし。
うん?何その信じられないみたいな顔。別に手当てってほどでもないでしょこれ。
え、違う?オレが手当てしてるのが信じられないって?失礼なやつだね。ちょっと黙ってなよ。

「あ、りがとうございます」
「うん」
「それで、お仕置きって...」
「そうだね、お仕置き......」

イルミはうーんと考えてしばらくすると「あ、そーだ」とぽんと自分のこぶしで手を打った。あまり感情が見えない。

「オレ、これから寝るから」
「はい」
「ここにずっと立ってて?」
「はい?」
「だから、一晩ここに立ってること」
「いえ、ちょっと意味が...」
「こうゆう訓練、昔したなー、あー懐かしい」

イルミはナマエの言葉を聞かずにそうそうと昔を思い出す。

「立って、るのですか?」
「そう、簡単でしょ?」
「...もし寝たら?」
「うーん、その時はまた新しいお仕置きがあると思ってね」
「また立つお仕置きですか?」
「それはどうかなー。今度は痛いことするかもしれない」

痛いことというワードでナマエは背筋をピンと張る。「そうそう、いい子」イルミはたいして表情も変えずにドアノブに手をかけた。

「おやすみなさいませ、イルミ様」

ナマエはオレに声をかけた。
おやすみー、でもお前は寝るなよ。










「おはようございます、イルミ様」

朝起きたら、くっきりクマをつくったナマエがよろよろしながらオレを見上げた。

「おはよう、ちゃんと守れたね」

ま、見えなくたって寝たらその瞬間にわかるんだけどね。

「ところで今何時ですか?...朝ですか?夜ですか?」
「朝だから起きてきたんけど」
「ああ...そうですよね......では」

ナマエはイルミに背を向けて歩き出した。

「え、ちょっと待ちなよ」
「......まだ何か?」
「これで終わりなんて誰が言ったの?」

ナマエはあからさまに嫌そうな顔をした。
何その顔、朝から不愉快なんだけど。

「イルミ様、私これから着替えて朝食の準備をしなくてはならないので....また後ででお願いします」
「......」

それもそうか。メイドは本来の仕事に戻る時間か。

「はいはいわかったよ、また後でね」
「ありがとうございます」

ひどく疲れた様子でナマエはオレの前から立ち去った。
そっか、メイドだから今日も仕事だったね。だけどゾル家のメイドならこれくら屁でもないとね。
我ながらいい特訓をしたのかも。




「おはようございます、キキョウ様」
「あらナマエ、昨日のワンピースはどうだった?」
「私にはもったいないくらい素敵でした」

母さんの朝からうるさい声にロズは疲れを感じさせないように父さんのコーヒーを注ぎながら答えた。
こんなに雇い主に好かれてたら、他の奴らに陰湿なイジメとか受けないのかなー。
しばらくするとキルとカルが起きて来て、ナマエはまたなんでもないように挨拶をする。

「ナマエ!」
「キルア様、昨日は...「お前死んだと思ったぜ!」...え?」
「だって...」

キルはオレの顔を見てグッと押し黙る。
殺されたと思ったかー、そっか心配してたんだねキルは。

「とにかく、良かったな!」
「はい」
「ん...?あれ、お前寝不足?」
「え、いや...よく眠れなくて」

ナマエは誤魔化すように笑うと、キキョウが「寝不足はお肌の敵よ、ナマエ」とコーヒーを啜りながら言った。

「大丈夫かよ」
「はい、ピンピンしてます!」
「そっか、じゃあまたゲームの、相手してよ」
「......はい、喜んで」

ナマエは少し固まってから答える。
昨日の朝、初めて見たナマエだけどかなりのスピードでうちの家族を手なづけてるのは見ればわかった。
手なづけるって表現は変?
でも、向こうが懐いてるって感じに見えるし。
まあ、オレは懐いたりしないけどね。


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