ディアーユー
□初めまして
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目の前で女が微笑んだ。
え、何て?今この女何て言った?
「イルミ様はお美しいですね、と申しました」
ブゥウッとキルアが炭酸飲料を吹き出した。
女は「あ、キルア様!」と言って吹き出したものをスカートのポケットから取り出したタオルで拭った。
キル汚い。いや、そんなことどうでもいいよ。そうじゃない。
「オレがキレイ?」
拭き終わった女にオレは聞いた。女は「はい」と答える。少し不思議そうな顔で。
てゆうか、この女は見たことがないんだけど。母さんに視線を送ると母さんは「新しいメイドですよ、イル」こっちを見ないで言った。
あーはい、そうだよねわかるよそれは。だってメイド服着てるし。見ればわかるし。
だけどオレはそんなこと聞きたいんじゃない。この女は何者なんだってこと。
何でオレがこんな何処の馬の骨ともわからないやつにキレイだって言われなきゃいけないわけ?男だよオレ。
何なんだよ。殺していい?
イルミは針を数本女に向かって投げた。
「わぁあ!」
しかし女はそれを持っていたお盆で全部回避された。カンカンカン!銀製のプレートにイルミの針はしっかりと突き刺さった。
「何、お前」
「イルミ様っ、私を殺す気ですかっ!」
「そうだよ、でも死ななかったじゃん良かったね」
「......」
イルミはちっとしたうちをした。
何こいつの反射神経。弟達も口をポカンてして。暗殺一家が一メイドの反射神経で驚く?いやオレは実際驚いたけど。
だって、驚くでしょ。ただのメイドだと思ったんだから。
でもこの女は只者じゃないと言えばそうだけど、でもただのメイドと言えばそうなのかも。
運良く回避できたのかもね。ま、この慌てぶり見たら、どちらともとれるからわからないけど。
「お前、何で死ななかったの」
「どうして、殺そうとするんですか!」
「は?そんなのオレの自由だろ」
女はお盆の針を抜き取りながら怒った口調で言った。
「まあ!そんなにツンケンしないでちょうだい!せっかくの家族そろっての朝なんだから!」
ゾルディック家5兄弟の母であるキキョウはキンキンした声でイライラが頂点まできているイルミをたしなめた。
「メイドを庇うの、母さん」
「この子を雇ったのは私よイル」
「ふーん」
メイドは「キキョウ様に雇っていただきました」と少しイルミを警戒しつつ笑った。
ふーん、そう。ま、うちはみんな男だからね。母さんも本物の女で着せ替えてみたりしたいんでしょ。妙にこいつを庇ったりするから、そうゆうことなんだって気づくよ。
「可愛らしいでしょう?」
「顔で選んだわけ?」
「まあ、顔でなんて!」
「そうなんだろうなーって」
「ちゃんと能力も買ったわよ」
「能力?」
能力ってさっきの?
あーそう。なるほどね、普通なら刺さってたもんね、さっきのやつ。さすが暗殺家業のゾルディックらしい考えだよ。
でもオレはこんなの強いなんて認めない。てか、一応メイドとしての能力を買わない?ふつー。
メイドはオレの殺気に気がついたのか穴だらけのプレートを構える。
...顔は、そうだね悪くないかなー。母さんが選んだだけあるよ。整ってるし、人形みたい。
だけど、こんなの金出せばいくらでもその辺にいるでしょ。
「おいお前」
イルミはメイドに呼びかけた。メイドは「はい!」と大きな声をあげる。
「お前なんか、全然へなちょこだし、ブスだよブス」
オレはメイドを尻目に席から立ち上がった。こんなやつが運んで来たものは食べたくないね。だいたいメイドやるならメイドらしく主人の言うこと聞けばいい。
お前の意見なんかいらないんだよ。
なんだよ、その顔は。文句あんの。
「もう行くのか」
「うん」
黙っていたシルバが立ち上がったイルミに声をかけた。一足先に仕事に行くのだと言う。
メイドは少し不服そうではあるが本来の自分の仕事を通して「言ってらっしゃいませイルミ様」と頭を下げた。そんなメイドを見てイルミは口を開く。
「あ、オレは女じゃないから」
後ろで「え」と声が聞こえた。
やっぱりね。女だと思ってたんだ。
あー、朝からムカつく。
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