長い夢物語
□第一章
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大きなコートで、大きなフォームで、
大きなシュートをする、
大きな彼の背中。
『…天才が努力するんじゃ、凡人は何もできないや。』
私の独り言が聞こえたのか、聞こえてないのか分からないが、
自主練習をしていた彼が私を見る。
緑「寿さん、今日はもう帰ります。」
彼の口からでる言葉は低い声と白い息になって、
私に届けられた。
『うん、お疲れさま。』
キセキの世代、というブランドのついた彼は、
何故か私に妙に懐いた。
私は恋人でもない彼の自主練に付き合い、
終われば、一緒に帰った。
あぁ、あの時とおんなじだ。
何年か前の事を思い出し、少し胸が苦しくなった。
しばらくもやもやした気持ちで部室の前で、緑間を待っていた。
緑「お待たせしました。」
『はい、帰りましょ……?』
歩き出そうとした私の手をいきなりつかんで、
緑「…どうかしたんですか?」
と緑間は私の顔を覗き込んで来た。
『…どうもしてない…よ。』
緑間の顔は綺麗で、ずるかった。
けど、
緑「…ずるい。」
とつぶやいたのは、私じゃなく緑間で、
そのまま彼は手を離して歩き出してしまった。