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□君の隣
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卒業式が終わった後、玄関前で皆が記念写真を撮っている中、あたしは1人校舎に戻って、ある場所に向かった。




「…懐かしいなぁ………」




向かった先は、英語教室。



あたしは中に入って、一番真ん中の列の前から3番目の席に座った。




………この席で、1年生の時、英文法の授業を受けた。




そして、その左隣には、宮地君がいた。




もしも、この場所であたしと宮地君が隣同士にならなかったら、きっとあたし達は、惹かれ合うことも、一緒に笑い合うことも、泣くこともなかった。




だって、彼は身体が大きくて、言葉遣いもちょっと荒々しいから、隣同士にならない限りは怖くて関われないから。




だからこの場所は、あたしにとって、とても大切な場所で、卒業式の日には必ずここに寄ってから帰ろうと、ずっと前から決めていた。




「玄関どこ探してもいねぇと思ったら、やっぱりここだったか。」




声がした方を見ると、教室の入り口には、誰かが立っていた。




「………宮地君?」



「何で疑問形なんだよ、馬鹿。」




宮地君は、教室の中に入って、あの時と同じように、あたしが座っている席の、左隣に座った。




「ここで俺らが隣の席同士だったときよ、よく手紙交換したよなぁ…」



「…いきなり紙渡されて、何かと思って見たら、「先生のズボンのチャックが開いてる」って……」



「あの柄パンちら見えは笑ったよな〜」



「ほんと、まんまと道連れにされたけど……でもあれがなかったら、あたしきっと宮地君と付き合ってないよ。」



「え?何でだよ。」



「だってあたし最初宮地君の事、めっちゃ怖い人だと思ってたもん。自分から話しかけるとか絶対無理だった。」



「まじかよ!!俺、そんなに凶悪顔だったかなぁ……」




ひとしきり2人で思い出話をして笑い合うと、彼がうんと伸びをしてから、ポツリポツリと話し始めた。




「俺、よく頑張ったと思わねぇ?部活に、勉強に…」



「そうだね…」




彼は、2つの事に全力を注げても、3つ以上は無理だと、前に言っていた。




だから『部活』と『勉強』を頑張れば、『恋愛』は後回し。




だから、私達は付き合って1年ほど経った時期に、一度距離をおいた。




「受験は終わって、最後の大会も終わって、今卒業式が終わって……自分でも驚くぐらいほっとしたんだぜ。」



「そりゃ、そうだよ。だって宮地君、頑張りすぎだもん。」




あたしは、彼の蜂蜜色の柔らかい髪の毛をくしゃっと撫でた。




「……でもよ、よくよく考えると俺さ、気づかないうちに、お前が1番になっちまわないように、お前に甘えないように頑張ってたんだよな。」



「そうなの?」



「あぁ。何か、勉強してる時にふと「名無しさんに会いたいな」とか、部活が終わった後に「今日のこと名無しさんに話したいな」とか………思ったけど、押し殺した。」



「じゃあ、メールでも電話でもすればよかったじゃん。」



「それじゃ、距離置いた意味、ねぇだろ。」



「それもそうだね。」



「……でも、もう全部終わったよ。」



「うん。」



「また、名無しさんの隣に戻って来てもいいか?」



「………もう、待ちくたびれちゃったよ………なーんてね。」




あたしは、距離を置いている間にすっかり逞しくなった彼の身体に腕を回して、胸に顔を埋めた。




「おかえり。」



「ただいま。」




人一倍頑張り屋で、ちょっと不器用な宮地君、3年間お疲れ様。




またいつかあたしとの恋が後回しになることがあったとしても、必ずあなたがあたしの隣に、帰って来ますように。




あたしは、教室に射し込む西日に、願いを掛けた。
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