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□悩み事
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体育館の倉庫に閉じ込められた男女……というのは、少女漫画でよくあるパターン。




あたしだって女子だから、そういうドキドキなシチュエーションに、憧れない事もない。




でも…………





相手がちょっと苦手な男子だったら、話は別だろう。




「あっちゃ〜……外から鍵閉められちゃったよ〜……。」




今あたしが一緒に閉じ込められているのは、同じクラスの葉山 小太郎くん。




バスケ部で、クラスの中ではムードメーカー的存在。



性格よし、顔よし、スタイルよしで、女子からはものすごく人気がある。




………ただ、内気で引っ込み思案なあたしは、昔からとにかくムードメーカー的存在の人に苦手意識があった。




うるさいし、馴れ馴れしいし、落ち着きはないし………




彼は、まさにその典型的なパターンだった。




この事を同じクラスの仲のいい友達に打ち明けたことはあるけど、1度も分かってもらえたことはない。




「こりゃ、次の授業が始まるまで出られないね〜……」



「次の授業って…」




さっきは4時間目だったから、次の5時間目が始まるまでは昼休みを挟んでいる。




ということは、昼休みは30分だから……




あと20分以上、彼と2人きりで、薄暗くて寒い倉庫の中に閉じ込められたままということになる。




…………ちょっと、気まずいなぁ。




すると突然彼が、あたしが体育座りをしている隣ににじり寄ってきた。




「あのさ、俺の悩み事聞いてくんない?」



「悩み事?」



「そう……俺今めっちゃ悩んでることあるんだよね〜……」




「……何かあったの?」




というかそれ以前に、葉山くんにも悩みとかあるんだ。なさそうな顔、してんのに。




「俺さ、好きな子がいるんだけど〜……その子に嫌われちゃってるみたいなんだよね〜……」



「ふぅん………」



「どうしたら、好きになってもらえるかなぁ?」



「え?」



「何したらいいと思う?」



「何したらって……」




いやいや、そんなこと恋愛経験値0のあたしに聞かれても困るから。



「名無しさんちゃんの個人的な意見で!!」



「………はぁ。」




どうしよう、適当に「チューでもハグでもすれば?」って言っておけばいいかな。




「はい!行くよ〜3、2、1……」



「キスとかハグとか……しちゃえば、相手もその気になるんじゃないかな?」




そう言うと、彼はいつものニコニコ顔で「そっかー!じゃあ、やってみるね!」と言って、そこで話は一旦終わった。



……いきなり抱きついてチューなんてされたら相手ドン引きすると思うけど、本当に真に受けたのかな……。



それから、他愛も無い彼の日常生活やら部活やらの話を聞かされて、うんうんと相槌を打っていると、倉庫の扉の鍵が、ガチャッと開いた。




20分ぶりの光に、なんとなく安心した。




「よかった〜!!これで教室に戻れるよ〜!!」




立ち上がって倉庫から出ようとすると…………






隣に座っていた葉山くんに腕をぐっと引っ張られて、そのままあたしの身体は彼の腕の中に収まった。











「………………これでキスしたら、俺のこと好きになってくれんでしょ?」
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